1)精子機能:sPLA2-IIIノックアウト(III-KO)マウスの精巣上体尾部より得た精子は、数は正常であったが、WTマウスの精子と比べて運動性が著しく低下していた。このためKO精子は卵子の透明体を通過する推進力が弱く、受精率が顕著に低下することが判明した。また、KO精子ではWT精子と比べてATP量やチロシンリン酸化が顕著に減少しており、鞭毛軸索微小管の対照リング構造が損なわれていた。そしてこれらの異常は、精巣ではなく、III-KO精子が精巣上体を通過する間に生じていた。精巣で作られた精子細胞は機能的に未成熟であり、精巣上体を通過する際に成熟して運動性を獲得する。この際に、精子の膜リン脂質に脂肪酸の劇的なリモデリングが起こり、オレイン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸からドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などの超高度不飽和脂肪酸に置き換わる。質量分析の結果からIII-KOマウスの精巣上体では、この精子の成熟に伴う膜リン脂質の脂肪酸リモデリングが大きく損なわれており、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸の少ない異常精子となっていることが判明した。したがって、sPLA_2-IIIは精巣上体の管腔上皮細胞から分泌されて内腔を通過する精子の膜リン脂質の脂肪酸リモデリングを制御しており、この代謝系の破綻が精子成熟不全を導くものと結論した。 2)メタボリックシンドローム:高脂肪食負荷したIII-KOマウスは、体重および内臓脂肪サイズの減少、脂肪肝の抑制、血中レプチン、グルコース、総コレステロール、LPC濃度の低下、インスリン抵抗性の改善が認められた。III-KOマウスでは脂肪組織のLPCが減少するとともにマクロファージの炎症マーカーが減少していた。血漿リポタンパク質の粒子径の測定を行った結果、III-KOマウスでは悪玉小径LDLが減少していることがわかった。このことから本酵素の欠損がメタボリックシンドロームを改善することを見出した。
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