統合失調症の原因や病態生理は未解明だが、この疾患の重要な仮説に連続性モデルがある。これは、高血圧における血圧や糖尿病における血糖値のように、何らかの特性が連続的に分布し、それが一定のレベルを超えると統合失調症を顕在発症するのではないか、というモデルである。統合失調症においてこの特性にあたるものが、統合失調症型人格と考えられている。神経認知研究や神経画像研究により、統合失調症型人格は、統合失調症と類似した異常と関連することが示されている。今回、ストレス反応に重要な役割を担う神経内分泌系としての視床下部-下垂体-副腎系(HPA系)機能に焦点を当て、この連続性モデルの検証を試みた。すなわち、統合失調症ではストレス負荷時のコルチゾールの反応性が低下することが知られているため、健常者の統合失調症型人格でも同様のコルチゾール動態がみられるかを検討した。141名の健常成人に対し、統合失調症型人格傾向を測定する質問紙であるSchizotypal Personality Questionnaire(SPQ)と、HPA系機能を鋭敏に測定する薬物負荷検査であるdexamethasone/corticotropin releasing hormone(DEX/CRH)テストを施行した。DEX/CRHテストでは、検査前夜23時にDEX1.5mgを内服、当日15時に1回目の採血、その直後にCRH100μgを静注、16時に2回目の採血を行い、それぞれの血液サンプルにおいてコルチゾール値を測定した。コルチゾールの反応性により、以下の3つの抑制パターン群を定義した。すなわち、「非抑制」は1回目または2回目のコルチゾール値が5μg/dl以上、「過剰抑制」は2回目のコルチゾール値が1μg/dl以下、それ以外を「抑制」とした。年齢と性別を統制した共分散分析により、過剰抑制群では、他の2群に比べ、SPQの9項目中、統合失調症の陽性症状に対応する「関係念慮」「疑惑」の2項目において有意に得点が高かった。本研究により、健常者の統合失調症型人格はコルチゾール低反応(過剰抑制)と関連していることが明らかになり、HPA系機能からも統合失調症の連続性モデルが支持された。
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