研究課題/領域番号 |
21F21036
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
佐々木 高義 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, フェロー (70354404)
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研究分担者 |
WANG CHENHUI 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2021-07-28 – 2023-03-31
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キーワード | 酸化物ナノシート / 亜鉛電池 / レイヤーバイレイヤー累積 / スピンコート法 / サイクル特性 |
研究実績の概要 |
亜鉛電池は安全、安価な二次電池として期待されているが、充放電の繰り返しにより電極表面の平滑性が失われ、最終的にデンドライトが生成して、短絡などの不具合が発生するといった問題を抱えている。本研究では層状チタン酸化物を単層剥離して得られる厚さ1 nmの酸化チタンナノシートで電極表面をコーティングすることにより、亜鉛の析出、溶出を均一に制御する方法を確立し、良好なサイクル特性の実現を目指す。 第一ステップとして亜鉛電極を機械研磨して数nmの表面粗さにまで平滑化した。得られた電極表面に酸化チタンナノシートを被覆するために、静電的自己組織化法、ラングミュア・ブロジェット法、スピンコート法の適用を検討した。その結果、スピンコート法では簡便な手順で単層稠密配列でき、かつその操作を反復することによってナノシートの厚み単位で膜厚を制御した多層膜被覆が可能であることを確認した。このようにして形成した酸化チタンナノシート膜でコーティングした亜鉛基板を電極として硫酸亜鉛水溶液中で充放電挙動を調べたところ、水素発生副反応を効果的に抑制でき、Zn/Zn2+主反応が効率的に進行することが分かった。電極表面を顕微鏡で観察した結果、亜鉛の析出が均一に起こっていることが確認され、観測された良好な電気化学的反応性(LSV, CV, EIS)と符合した。その結果、充放電繰り返し寿命は1400 h以上と、未処理亜鉛電極(約100 h)と比べて10倍以上に改善されることが明らかになった。以上の結果は、これまで大きな課題であった亜鉛電池の長寿命化を達成できる有望な対策を示すものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の通り、亜鉛電極表面にナノメートル厚の酸化チタンナノシート膜を溶液プロセスを用いて形成することにより亜鉛の電気化学的析出・溶出を安定に反復することができ、寿命を従来の10倍以上に伸ばせることが明らかになった。本成果は、これまで高い期待を集めながら実用化に向けて進展が遅れていた亜鉛電池開発に大きな展開をもたらす可能性を示唆する新技術として期待できる。現在、良好な電池性能、安定なサイクル特性の起源の解明を目指して、様々なキャラクタリゼーション技術(XRD, SEM, TEM, XPS,TOE-SIMSなど)を用いて詳細な検討を進めており、重要な知見が得られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究により見出された優れた電気化学的反応特性はナノシート膜の厚みや内部構造、膜質に大きく依存すると考えられ、その追究は今後の重要なテーマである。本グループでは多様な酸化物ならびに水酸化物ナノシートを開発し、ラインアップしており、さらにこれらをレイヤーバイレイヤー累積するナノコーティング技術を確立している。組成、構造、厚み、横サイズが異なるナノシートを用いて形成したコーティング膜がどのような亜鉛電池特性をもたらすかを明らかにすることは、本成果の拡大に重要であり、代表例としてペロブスカイト型酸化ニオブナノシートやバーネサイト型酸化マンガンナノシートを用いて、同様な実験を行い、酸化チタンナノシート膜と比較検討し、本効果に対する理解の深化を図る。次に優先すべき課題として異種ナノシートを様々な順番かつ層数で累積して形成されるヘテロ膜の効果に関する検証が挙げられる。酸化物ナノシートはその大部分がワイドギャップ半導体であり電気的には絶縁性であるため、亜鉛電極表面での亜鉛の析出、溶解に阻害要因となっている可能性もある。そこで酸化チタンナノシートと導電性の還元性酸化グラフェン(rGO)を交互に累積した超格子膜を亜鉛電極表面に構築して、電池特性を調べ、超格子構造膜によりさに優れた効果が得られるかどうかを明らかにする。
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