共生微生物はときに宿主の発生や形態形成に劇的とも言える大きな影響を及ぼすが、その分子基盤まで解明できた例はほとんどない。100万種以上が知られる昆虫は「共生微生物の宝庫」とも言われ、共生の進化機構を解く重要な生物群と考えられているが、多くの共生微生物の遺伝子組換えができず、共生の分子基盤の解明には程遠いのが現状である。本研究で対象とするホソヘリカメムシの共生系は、宿主昆虫と共生細菌の両方向から研究アプローチが可能である。これまでに我々はホソヘリカメムシ共生器官の形態形成を観察し、共生細菌の感染によってその袋状構造が劇的に変化することを明らかにしてきた。また、転写因子Caudalが盲嚢の形態変化に重要であることを突き止めた。本研究では、Caudalが引き起こす形態変化の組織学的解析と発現変化する遺伝子の網羅的解析を行い、形態変化に関わる候補遺伝子を抽出する。さらにそれら候補遺伝子のRNAiを行うことで、盲嚢の形態変化に関わるパスウェイを地道に特定していく。研究を順調に進めていたが、研究実施者が母国にて無事にポジションを得て帰国したため、研究は中断することとなった。今後の追加実験は必要であるが、Caudalが調節する可能性がある細胞構造について特定に成功しており、今後の進展により成果の発表ができるものと考えている。
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