研究課題/領域番号 |
21F21107
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
杉原 泉 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (60187656)
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研究分担者 |
LUO YUANJUN 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | マウス / 小脳 / 非運動機能 / 橋核 / 脊髄小脳投射 / 大脳 / Aldoc / 苔状線維 |
研究実績の概要 |
橋核などが中継する大脳から小脳への神経投射は、運動制御の他に認知機能にも関わり、小脳障害により自閉スペクトラム症や認知行動機能障害が発生する基盤である。大脳と小脳にはそれぞれ機能局在が存在するので橋核にも機能局在構造が存在し、明確な部位対応的投射が大脳・橋核・小脳間に存在するのではないかと仮定している。しかし、これまで、そのような構造は明確にされていない。そこで、本研究は、橋核の区画構造と橋核を経由する大脳から小脳への部位対応的投射の構築の原則を明らかにして、小脳認知機能の基盤となる大脳から小脳の投射様式を解明することを主目的とした。外国人特別研究員の軸索投射解析技術と、受け入れ分野での小脳の分子発現と機能区分に関する知識を組み合わせ、外国人特別研究員に、受け入れ研究者の指導する大学院学生3名に実験手法を指導してもらい、研究を進めた。 マウス橋核への両方向性トレーサーの注入による部位対応性投射解析の実験を一人の大学院生が効率よく行い、データをまとめつつある。2021年度中に研究成果を学会で発表した。橋核に、中央部分と吻側、内側、外側、尾側の5区画を仮定すると、大脳・橋核・小脳間の部位対応投射が説明しやすくなることが明らかになった。 一方、2022年度の実験の準備として、マウス大脳皮質への経シナプス性標識のアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)による大脳・橋核・小脳系の機能構築の解析の手法が働くことを確認して予備実験に取り掛かった。 また、大脳から小脳への投射の解析の一つとして、単一軸索投射パタンの解析を外国人特別研究員の得意とする単一軸索再構築法による解析を進めた。大脳からの下降性投射を受け、さらに抹消からの感覚入力も合わせて受ける、腰髄からのマウス脊髄小脳投射の軸索投射パタンについての解析をまとめて、2021年度に論文発表することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の2021年度において、本研究は、計画相応の伸展を達成していると考える。研究計画に含まれるほとんどの種類の実験を進展させることができた。研究代表者を責任著者として、外国人特別研究員と指導した学生とを共同の第一著者とする1編の論文を国際誌に発表することができた。研究が進展した理由としては、本研究費(特別研究員奨励費)を(一部は繰り越したものの)効率的に使用することができたこと、大学院生が本研究に参加してくれたこと、彼らの指導が順調にできたことが挙げられる。研究室での受け入れ準備状況において、マウスの一時的飼育ができる実験室(第二種実験室)を設置することができ、2021年5月頃から利用できるようになったことが本研究の進展に大きく寄与した。そのほかの所属研究室の基本的研究環境も整っていたことなどが挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の重要部分でありながら、2021年度中に進展はしたものの論文発表にまでは至らなかった、橋核への両方向性トレーサーの注入による大脳・橋核・小脳投射の部位対応性の実験を進め、2022年度中に解析結果をまとめて発表することをめざす。これまでの未発表の解析結果では、大脳の連合野・辺縁系を含む多くの領域が橋核の吻側・内側を経由して、小脳の非運動機能に関わる小葉へ投射していること、視覚野と聴覚野は橋核の外側を経由し、運動野と体性感覚野は橋核の中央と尾側を経由することなどが示唆されている。橋核に大脳の機能局在を再現する平行投射的な部位対応関係があり、さらに、発散・収束の両者の特色を持つ橋小脳投射によって大脳の機能局在が小脳の機能局在に変換されることも示唆されている。これらは、大脳小脳連関に機能局在がどのように表現されているかをということに関して新しい理解を提案するもので、論文として発表できるように努めていく。 これまでの解析により、大脳から小脳への投射の部位対応性が示されてきているが、どのようなメカニズムで部位対応性が形成されるかが、重要な問題として認識されてきた。それの一つの可能性として、ニューロンが生まれるときの(神経幹細胞が最終分裂して神経細胞になるときの)時期が関連していることが考えられる。例えば、早く生まれた神経細胞は、やはり早く生まれた神経細胞に投射するということが仮説として考えられる。神経細胞を生まれた時期依存的に標識する方法を利用して、これに関する解析を進めることを特別研究員が提案しており、この実験も進めようと考えている。
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