本研究は、地域在住女性高齢者15名を対象にコントロール条件、低強度運動、中高強度運動を行わせ、就寝前後の認知機能および認知課題中の脳血流の活性化度を評価することにより、本研究の学術的な「問い」である“高齢者の睡眠障害の改善を通じて認知機能に好影響を与えうる運動強度はどのような強度か”を検証することである。 各試行中における平均心拍数は、安静座位が63拍/分、低強度運動が92拍/分、中高強度運動が109拍/分であり、安静座位に対して最大心拍数が低強度運動は約45%、中高強度運動は約72%であった。なお、試行中における深部体温の変化は、低強度運動(+0.5℃)と中高強度運動(0.7℃)は、安静座位に比べて有意に増加した。 総睡眠時間、睡眠効率、レム睡眠の潜時、N2、において有意な傾向はみられたものの、有意差は見られなかった。しかし、いずれの項目において、低強度運動が良好な値を示した。翌朝に実施した主観的な睡眠感については、統計的に有意な結果は示さなかった。 試行前後および翌朝に実施したストループテストにおいては、統計的な有意差はみられなかったが、低強度運動の後および翌朝の認知機能の中でも実行機能を表す指標(ストループ干渉量)が良好な値を示した。ストループテスト中にfNIRSによる前頭前野の脳血流を調べた結果、右側のDLPFCにおいて有意な交互作用がみられ、事後検定の結果、低強度運動が運動後に中高強度運動より前頭前野の脳血流が活性化されていた。なお、右側の腹外側前頭前野と左側の前頭極領域も有意な交互作用がみられたが、事後検定では有意な群間差がみられなかった。 本課題では、仮説通りに運動が睡眠および認知機能に大きな影響は及ぼさなかった。しかし、全体的に客観的な睡眠のパラメーターと認知機能、そして前頭前野の脳血流の活性化においては、低強度運動が良好な値を示している。
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