哺乳類の運動学習の際には、大脳運動野の神経細胞同士をつなぐシナプスの可塑性が重要とされている。しかしながら、個々のシナプスの機能的な可塑性を時間的・空間的に定量的にモニターする方法がないので、運動学習のシナプスレベルでのメカニズムはよくわかっていない。そこで本申請研究では、1)運動学習における個々のシナプスの機能的な変化をモニターする技術を新規に開発し、そのうえで、2)マウスを動物モデルに用いて運動学習のメカニズムをシナプスレベルで理解することを目指した。2022年度は、2021年度に引き続き、マウス個体の脳内で個々の興奮性シナプスの機能的な変化をモニターする新規の技術を開発することを目指した。昨年度に引き続き、シナプスの機能を定量するために興奮性シナプス伝達の担い手であるグルタミン酸受容体に着目し、当研究室で開発した生体脳内ゲノム編集・分子イメージング技術「SLENDR/vSLENDR」および最先端の化学ラベリング技術を駆使して、細胞膜表面および細胞内プールに存在する内在性のグルタミン酸受容体のGluA1、GluA2、GluN1の各サブユニットを区別して標識できるようにした。具体的には、各サブユニットをラベルするためのゲノム編集コンストラクトを子宮内電気穿孔法でマウスに投与してゲノム編集によるノックインを行い、大脳皮質でAMPA型グルタミン酸受容体およびNMDA型グルタミン酸受容体の各サブユニットが樹状突起スパインのヘッドに集積していることを確認した。また、NMDA型グルタミン酸受容体は確認できるがAMPA型グルタミン酸受容体はほとんどない、いわゆるサイレントシナプスがあるような樹状突起スパインも同定することに成功した。
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