フッ素を含む遷移金属化合物はフッ素の高い電気陰性度に起因した高電位・高エネルギー密度を実現する二次電池の活物質として期待されている。一方、合成の困難さゆえにそれほど多くの化合物については検討されておらず、その可能性がまだ十分に明らかにされていない。そこで、本研究では高圧合成法を用いて鉄をはじめ遷移金属を含む新規遷移金属フッ化物および酸フッ化物の合成を行い、リチウムおよびナトリウム二次電池の活物質としての応用の可能性を明らかにすることを目的とした。 令和3年度の研究の中で、LiFe2F6をはじめAMM'F6 の組成をもつ複合フッ化物の新規相の合成に成功し、LiFe2F6において良好な電気化学特性を示すことを明らかにした。令和4年度はA3MF6組成の遷移金属フッ化物も対象として、高圧合成を行い、構造変化と電気化学特性の関係について調べた。 具体的にはマルチアンビル型高温高圧装置を用いて高圧合成を行い、得られた遷移金属フッ化物について研究室の粉末X線回折装置を用いて相の同定を、そして、大型放射光施設SPring8において放射光粉末X線回折測定を行い、測定した回折データを用いてリートベルト解析により構造の精密化を行った。さらに、得られた試料を電極活物質として電池を作製し、充放電試験を行うことにより電気化学特性を調べた。特にLi3VF6について研究を行い、高圧合成により斜方晶の新規相を見出した。この中で、ミクロンサイズの前駆体を用いた高圧合成では5GPaの圧力が必要であるのに対して、ナノサイズの前駆体を用いることにより、2.5GPaというより低い圧力で新規相の合成が可能になることを明らかにし、高圧合成における前駆体の重要性を示した。特別研究員が帰国後も連絡を取り合い、共同研究を継続している。
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