研究課題/領域番号 |
21F51748
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
川野 竜司 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90401702)
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研究分担者 |
KIISKI IIRO 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2021-11-18 – 2023-03-31
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キーワード | 人工イオンチャネル / 金属錯体 / ペプチド / 酵素反応 |
研究実績の概要 |
合成イオンチャネルは、分子ロボットと外部環境間のゲートとして機能し、分子ロボットに必須の要素の一つであるセンサーとして働くことが期待されている。外部刺激に対して一定の応答を示す分子ロボットを実現するには合成イオンチャネルの開閉状態を制御する必要があるが、これまで困難であるとされてきた。本研究では、ロジウムイオンを用いた有機金属錯体(RhMOP)からなる合成イオンチャネルの開閉状態を、チャネルの外周に配位させたペプチドリガンドのリン酸化状態によって外部から制御することを目的とする。さらに、マイクロ流体液滴形成法を用いて調製したリポソーム上に開閉制御可能なチャネルを搭載して外部刺激応答性を検証し、チャネルの開閉が引き金となって起こる酵素反応をリポソームに実装することにより、リポソームを基盤とした外部刺激応答性分子ロボットを考案することを目的とする。 今年度は、京都大学の古川教授のグループと共同で合成したRhMOPにリン酸化可能なペプチドリガンドを修飾し、リン酸化によるチャネルの開閉制御を平面脂質二分膜上でイオンコンダクタンスを用いて評価した。リン酸化後のRhMOPはリン酸化前のRhMOPと比較して大きなイオンコンダクタンスを示した。このことから、RhMOPに親水性のリン酸基が導入されることによりチャネルが開いた状態で脂質膜上に固定されたと考えられた。次に、リン酸化前後のRhMOPをそれぞれ細胞膜に添加したところ、一定時間後の総細胞数および細胞生存率に違いが見られ、異なる細胞毒性を示すことが確認された。さらに、RhMOPを搭載するリポソームを均一サイズでハイスループットに調製するため、マイクロ流路を用いたリポソーム調製の様々な条件検討に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平面脂質二分子膜上でRhMOPのリン酸化による開閉制御に成功した。さらに、非リン酸化RhMOPとリン酸化RhMOPでは細胞膜への作用が異なることを確認した。また、マイクロ流体液滴形成法によるリポソーム調製に取り組んだ。 まず、リン酸化可能なペプチドリガンドのRhMOPへの配位を紫外可視吸収スペクトルのシフトとRhMOPの流体力学的半径の変化によって確認した。マイクロデバイス上で作成した平面脂質二分子膜を用い、リン酸化によるRhMOPの変化をイオンコンダクタンスによって評価した。脂質溶液中に非リン酸化/リン酸化RhMOPをそれぞれ混合して平面脂質二分子膜を作成したところ、リン酸化RhMOPの方がイオンコンダクタンスが大きいことがわかった。次に、非リン酸化RhMOPが平面脂質二分子膜上に存在することをイオン電流により観察しながら、脂質二分子膜を挟む測定溶液中にリン酸化酵素であるプロテインキナーゼAを添加した。その結果、プロテインキナーゼAの添加後にcharge fluxが増大することがわかった。これは、RhMOPに修飾されたペプチドリガンドがリン酸化されて親水性となることにより、チャネルが開いた状態で脂質膜上に固定されるためであると考えられた。 次に、RhMOPの細胞膜への作用を調査した。まず、RhMOPを水層に溶解するために様々な条件検討を行い、溶解したことを液滴接触法デバイスを用いて確認した。続いて水層に溶解した非リン酸化/リン酸化RhMOPをそれぞれ細胞膜に作用させたところ、一定時間後の総細胞数および細胞生存率が異なることがわかった。 今後はRhMOPをリポソームに搭載する予定である。そこで、均一サイズのリポソームをハイスループットに調製するため、マイクロ流路を用いたリポソーム調製に向けて様々な条件検討に取り組んだ。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はリポソーム上にRhMOPチャネルを搭載し、リン酸化・脱リン酸化による開閉制御を試みる。さらに、RhMOPチャネルの開閉により制御される酵素反応を設計し、RhMOPチャネルの開閉に基づいた可逆的な反応経路がリポソーム上で構築可能であるかどうかを検証する。
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