(1)2022年の第66回国際東方学者会議において岡村の主宰したシンポジウム「漢晋変革の考古学的研究」の成果を東方学会の英文紀要『ACTA ASIATICA: Bulletin of the Institute of Eastern Culture』No.126(2024刊、序文+論文4本、計134頁)に特集した。その主な内容は漢晋間における都城制・墓制・車制・服制の変化とその背景に関する論考である。都城は曹操の修築した業城と魏明帝の修造した洛陽城において、単一の宮城、都城全体の中軸線、条坊制が出現したこと、墓制では魏晋期に薄葬化が進んだこと、ステイタスシンボルであった車馬が漢末に牛車に取って代わったこと、魏晋期に進賢冠よりも武冠が重んじられるようになったことから、古代官僚制から中世貴族制への転換を多角的に明らかにした。 (2)黒川古文化研究所蔵の①章和二年(88)「堂狼造作」銅盂、③永初元年(107)「堂狼朱提造」銅盂、④建安二年(197)「八月造作/周氏」銅盂の3点について(株)日鉄テクノロジーに依頼してICP・鉛同位体比分析を実施した。①・③の銘文にある「堂狼」「朱提」は雲南省東北部の県名、④は蜀郡(四川省成都市)にて制作された日用品である。①章和二年盂のICP 分析結果は、銅80.55 %、錫11.74 %、鉛7.43 %であり、それ以外の元素はすべて0.10 %以下であった。不純物が極端に少ないのが特異である。また、①「堂狼造作」盂と④「周氏」盂の鉛同位体比は後漢鏡タイプの領域B、③「堂狼朱提造」盂は殷墟・三星堆青銅器タイプの領域Sと領域Bの中間(領域S -B 間)に位置し、①・④は堂狼県が所在した雲南省会沢鉱山、③は朱提県が所在した雲南省金沙廠鉱山の方鉛鉱の鉛同位体比に近似することから、工房の所在した長江上流の金沙江東岸に産する原料を用いたと推測される。
|