研究課題
本研究では,クリとウルシを中心とした縄文時代の森林資源の管理と利用に付随する植物群の存在と利用部位を解明し,集落周辺における森林資源管理に存在した多様な植物利用の実態を明らかにする。本年度は,以下の遺跡で森林資源の管理と利用に関して検討を行った。(1)縄文時代中期から晩期において継続的に利用された福島県前田遺跡では,木材と種実の資料を対象として分析を行った。その結果,木材ではクリとウルシが資源管理のもとで多量に利用されていた点を確認した。また,ケンポナシ属やニシキギ属,キハダ,ミズキ,ムラサキシキブ属,ニワトコといった樹種の木材も器種によって多用されていた。このうちキハダとニワトコ,ミズキは果実も利用されており,縄文時代中期の人々にとってごく身近な利用植物であることが明らかになった。(2)縄文時代前期の富山県南太閤山I遺跡では出土木材と花粉の検討を行った。その結果,集落周辺ですでにクリ林が人為的に維持されていたことを確認した。この遺跡では集落が確認されておらず,集落との関連は不明であるが,縄文時代前期では最も西の地点でクリ林の資源管理を確認した。(3)縄文時代中期から後期にかけて集落が維持された埼玉県デーノタメ遺跡で,中期末の寒冷化イベントが森林資源の管理と利用にどのように影響したのかを花粉と種実の分析から検討した。その結果,中期と後期では出土する分類群が若干異なるものの,継続的にクリとウルシの森林資源の管理と利用が行われていて,寒冷化イベントの影響は認められなかった。以上の出土資料の検討のほかに,縄文時代でも早期以降に多数見いだされている編組製品の素材の採取と利用の実態を解明するため,ラオス国立大学と共同研究を行い,ラオス国内の編組製品の素材の調達や製作過程の聞き取り調査を行い,製品の実物資料を入手した。
2: おおむね順調に進展している
COVID-19の影響で2021年度内には実施できなかった出土資料の調査が2022年度にはかなりできるようになり,予定した資料に加えて,それ以外の遺跡での資料の検討も進められる状況なった。また当初は予定していなかったラオスにおける調査では,縄文時代に通じる素材の入手方法や加工の情報を得ることができ,集落周辺の植物の知識の重要性を確認した。
当年度に分析を行った前田遺跡とデーノタメ遺跡の分析は継続して行い,時代および資料をより網羅するように調査して,両遺跡の周辺における森林資源の管理と利用の詳細を解明する。それらの遺跡に加えて,予定している下宅部遺跡や真福寺貝塚などの出土資料を検討し,森林資源の管理と利用の地理的な違いの有無を検討する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (23件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
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