本研究では、①どのような種、②どのような状態の標本種子が生存しているのか、また標本種子より③復元された集団に含まれる遺伝的多様性を明らかにすることである。その為に、日本国内の複数の標本庫より標本種子を得ると共に、複数の分類群において標本種子の調査を行い分類群横断的な比較を可能にする。そして、標本種子由来の芽生えについて系統保存、展示による普及教育活動、野生復帰の検討を行い、④博物館標本を基にした新たな生物保全のフレームワークを構築する。 2023年度は①、②について、大阪市立自然史博物館、北海道大学総合博物館、東北大学植物園の各標本庫から複数の分類群の標本種子を得て、発芽実験および染色試験を試みた。これまでの研究を通じて、のべ121科206種について評価を行い、24科32種90標本(15.5%の種)から発芽、61科102種402標本(同 49.5%)で生存が認められた。発芽した標本は作製後約45年以内のものだったが、生存している種子は約60年が経過した標本においても多く確認された。また、申請者が2012~2013年にかけて8通りの標本作製処理を施して保存していた種の種子に対して発芽・染色試験を行い、標本作製時の乾燥温度とその後の保存温度が種子の生存に影響を及ぼしていることが明らかになった。 ③については、標本およびその種子や実生と、採集された野生集団の遺伝的多様性を評価するために、標本種子の発芽や生存が確認された複数の種について予備実験を行った。 ④については、本研究課題の成果に関する企画展『生きている植物標本のタネ』(2024年2月10日~3月24日;於新潟大学旭町学術資料展示館)を開催するとともに、一般向けの講演会を2回[『植物標本のタネと生物保全』(2月24日、於新潟大学旭町学術資料展示館);『標本庫知新』(2024年3月23日、於北海道大学総合博物館)]開催した。
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