研究課題/領域番号 |
21H00688
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
吉田 文彦 長崎大学, 核兵器廃絶研究センター, 教授 (30800007)
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研究分担者 |
向 和歌奈 亜細亜大学, 国際関係学部, 准教授 (00724379)
樋川 和子 大阪女学院大学, 国際・英語学部, 教授 (00875312)
中尾 麻伊香 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 准教授 (10749724)
佐藤 丙午 拓殖大学, 国際学部, 教授 (30439525)
遠藤 誠治 成蹊大学, 法学部, 教授 (60203668)
堀部 純子 名古屋外国語大学, 世界共生学部, 准教授 (60805018)
河合 公明 明治学院大学, 国際平和研究所, 研究員 (60889509)
真山 全 大阪学院大学, 国際学部, 教授 (80190560)
小伊藤 優子 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 高速炉・新型炉研究開発部門 戦略・計画室, 技術・技能職 (80827080)
西田 充 長崎大学, 多文化社会学部, 教授 (20938568)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 核抑止 / 安全保障 / 核軍縮 / 核拡散 / 核不拡散 / 核不拡散条約(NPT) / 核兵器禁止条約(TPNW) / 国際人道法 |
研究実績の概要 |
ウクライナ危機が起き、米ロ、米中の関係がさらに悪化して核軍縮の展望が開けない状況に陥った。「核不拡散条約(NPT)を基盤」に国際安全保障、国家安全保障の安定化をはかるという、ここ半世紀の核問題のグローバルガバナンスが大きく揺らぐ中、「安全保障を損なわない核軍縮」に向けた政策課題群の特定と対応策の提示をめざす本研究の意義は一段と高まった。そうした認識のもとで、課題の分析や考察を進めた。 2022年度は当初計画に沿って、多分野の専門家の統合知で課題群を分析した。得られたデータや課題を整理したうえで、安全保障観の多様化が進む国際社会における核兵器の現在地、核抑止の実相を見定める作業を進めた。その作業を通じて、①従来の理想主義vs現実主義の二項対立的な評価②安全保障観の多様化や先端技術革新・拡散を十分に反映しない評価③「ポスト核時代」に過度に楽観的な評価とは一線を画す形で、核兵器に関する「総合的評価」への作業を前進させた。実務的には「核抑止と国際政治」「安全保障と国際法」「核抑止と核軍縮・不拡散」の3つのグループに分かれて、各分野における核兵器が抱える課題と論点整理を行い、核兵器の「総合的評価」に関わる分析を進めた。「安全保障を損なわない核軍縮」に必要な政策群の特定作業にも取り組んだ。 早稲田大学出版部から本研究の成果を刊行することが決まり、出版準備に取りかかった。科研費・研究成果公開促進費「学術図書」を申請すべく、上記の3グループの役割分担を決めて、書籍用原稿の執筆も進めてきた。 刊行について、3グループによる論点整理の成果をRECNA Policy Paper(長崎大学核兵器廃絶研究センター刊)としてオンライン出版する準備を進めてきた。2023年度の早い時期に順次、刊行する予定である。研究代表者の吉田は本研究の成果も踏まえて、『迫りくる核リスク』(岩波新書)を上梓した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
6回の全体会合に加え、「核抑止と国際政治」「安全保障と国際法」「核抑止と核軍縮・不拡散」の3つのグループの会合を随時開催した。各グループの主な作業は以下の通り。 「核抑止と国際政治」では、ウクライナ危機で浮き彫りになった核抑止の価値と限界/新興技術で大国間競争が加速したことが軍備管理に与える影響/G20台頭に象徴される国際社会のパワーソフトと、それが与える旧来の大国中心型ガバナンスシステムへのネガティブインパクト――等を研究。「安全保障と国際法」では、核兵器の使用と威嚇に関する自衛権上の制約/国際人道法に基づく核兵器の使い方の制約/軍縮国際法による「戦略的安定性」という共益の確保/「法の支配」を通じて武力紛争・核戦争を防止するLawfare機能の強化――等を研究した。「核抑止と核軍縮・不拡散」では、「安全保障を損なわない核軍縮」に不可欠な「垂直拡散」(核軍拡)と「水平拡散」(核拡散)の同時達成を核不拡散条約(NPT)の下で可能にする方策/軍事用・民生用の双方を対象とした核分裂物質の廃絶に向けた段階的な仕組みの構築/核廃絶に向けたポストNPTへの移行期を念頭においたNPTの運用のあり方――等を研究した。 以上の結果、研究チームの中で以下の共通認識が形成された。①核軍縮と核抑止が二律背にならない政策的根拠を明確にし、核兵器を含む軍縮を進めることが持続可能な平和にとって緊要な手段であると認識する、②国際人道法、環境関連の国際法、核のタブーなどの多面的な制約をベースにして核兵器の役割を最小化し、並行して「ポスト核時代」の安全保障システムの構築を進める、③核不拡散体制の強化・徹底をはかって、核廃絶後の違法な核再武装を防ぐ保障措置の準備と実装を重視する。こうした基本的枠組みを念頭に置きながら、「安全保障を損なわない核軍縮」を共通の行動原理にできるような政策群を提示する研究方針を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
締めくくりの1年である2023年度は最終成果物の完成を念頭に、以下のような研究を推進する。 (1)早稲田大学出版部から刊行予定の単行本『安全保障を損なわないか核軍縮』(仮題)が目下の重要な成果物である。科研費の「学術図書」助成を申請するために、申請期限に間に合わせる形で執筆・編集などを完了させる必要がある。本書の主な構成は、1章=核抑止と国際政治 2章=核不拡散と軍縮、3章=安全保障の共通言語としての国際法、4章=核兵器の総合的評価、5章=「安全保障を損なわないか核軍縮」への提言、となっている。1~3章については既に骨子も出来上がっており、文献・資料やヒアリングなどによる追加的な調査研究を加えながら執筆作業を進める。必要に応じて各グループで会合を開き、章ごとの論理や表現などの調整を行っていく。4・5章に関する概念的枠組みはこれまでの全体会合において形成されているが、各グループのリーダーの会合を中心に細部の詰めを行って、研究成果のレベルをあげていく。本研究では「提言」を示すことが想定されており、主として5章において「提言」を記す予定である。単行本の主要なポイントを主題としたワークショップを開催し、より幅広な意見を聞きながら参考になるインプットを研究チームで吸収していく。 (2)学会での発表や国内外の学術誌への投稿も必須課題であり、具体化に向けた研究を進めていく。本研究の中でオリジナリティーの高いのは、上記の2章の「核廃絶に向けたポストNPTへの移行期を念頭においたNPTの運用のあり方」と、3章の「国際人道法に基づく核兵器の使い方の制約」、5章の「安全保障を損なわない核軍縮」をめぐる提言に関わるところと考えられる。こうした研究成果を中心に学会発表や論文投稿をめざしていく。
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