研究課題/領域番号 |
21H00692
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
滝澤 三郎 早稲田大学, 地域・地域間研究機構, その他(招聘研究員) (30554935)
|
研究分担者 |
明石 純一 筑波大学, 人文社会系, 教授 (30400617)
杉木 明子 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (40368478)
山田 満 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (50279303)
橋本 直子 一橋大学, 大学院社会学研究科, 准教授 (50865095)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 入管法改正 / 補完的保護 / ウクライナ避難民 / 難民認定 / 難民認定ガイドライン / UNHCR |
研究実績の概要 |
2022年度の研究は内外の難民情勢の激変に影響を受けた。前年度のミャンマークーデタとアフガン政変、2023年2月のロシアによるウクライナ侵略の中で、多数の人々が日本に庇護を求めて来た。政府は2500人を超すウクライナ避難民を首相官邸の指揮の下に受け入れるなど、先例のない前向きな難民対応を取った。難民認定数も202人と過去最高となった。並行して「補完的保護制度」の導入や「難民認定ガイドライン」の策定難民制度の改革が進められ、入管法の国会再提出作業も進んだ。 そのような背景の中で、2022年度の研究は①ウクライナ避難民に対する国際的保護対応と日本政府の対応の比較、②「補完的保護制度」の導入を含む日本政府の対応の歴史的背景の解明、③メディアや大学での講演活動を通した研究成果の発信、④論文や書籍の準備に注力した。 具体的には、8月の多文化共生研究会での「補完的保護」についての発表、インターネットフォーラムThe Tokyo Post 上での7回(各2000字)にわたる論考の発表、2017年出版の「難民を知る基礎知識」の「前書き」と「日本の難民政策」2章の全面的書き換え、移民政策学会での3回の発表、日本人の対難民意識の変遷についてのインターネット調査、年間を通して約10回の大学での招待講義、10回前後のメディア・研究者インタビューがある。入管法改正に関して、入管庁との意見交換も継続的に行った。これらの作業の合間に、10月にはジュネーブのUNHCR(年次総会ほか)への調査旅行、2023年3月にはポーランドへのウクライナ避難民状況視察のための調査旅行を行った。 Betts&Collierの"Refuge"翻訳作業での全章の見直しと監修も行ったが、当初予定していた同書の翻訳出版を記念とした国際シンポジウムは、Betts博士の都合がつかず、2023年度に延期された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
"Refuge"の出版記念国際シンポジウムは2023年度に延期されたものの、結果的には日本の難民政策の変化の最新状況を反映したものとなり、Betts博士からは日本の政策変化に対する高い評価が与えられ、同氏の影響力が大きいことから、国際的な評価にもつながった。 研究が計画以上に進展しているとの判断は以下の理由による。当初の研究計画は、やや硬直化していた感のある難民政策を前提としてその原因を探るというものであったのに対し、2021年以降には難民政策が大きく変わった。その中で本研究代表者や共同研究者は法務省・入管庁に助言する機会があり、いわば政策決定過程への「参与観察」の機会に恵まれた。通常は難民政策決定にかかる情報はほとんど外に出ないところ、「参与観察」の機会は研究の質的向上に大いに貢献した。 それはまた政策アドバイスの質を高め、研究の社会的意義を高める結果になったと判断される。なお、研究代表者と共同研究者(橋本直子准教授)は、2023年度の入管法改正に際して国会の衆議院法務委員会に参考人として招致され、意見を述べている。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年から2022年にかけての、ミャンマー人35000人に対する特別在留許可や、2500人を超すウクライナ避難民の受入れなどの日本を取り巻く難民状況と対応策が激変していること、また「参与観察」の機会に恵まれたことは、研究の質を高め、研究成果の影響範囲を広げている。英米の研究者も日本の難民政策の変化に注目している。なぜ、そしていかに日本の難民政策が変わっているのかについての解明は、今後の難民研究にとって有意義なものである。また「難民鎖国」とまで言われた日本の難民政策の変化(好転)は、欧米諸国において難民の締め出しが進むなかで、難民の保護の立場からは一つの希望ともなっている。 したがって、研究の最終年度である2023年度においては、研究の深化と研究成果の積極的な内外での発信に力を入れることで、研究の総合的な価値と貢献を高めると考えられる。
|