研究課題/領域番号 |
21H00728
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
服部 正純 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 教授 (60768349)
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研究分担者 |
安田 行宏 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 教授 (10349524)
大橋 和彦 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 教授 (50261780)
藤谷 涼佑 東京経済大学, 経営学部, 講師 (90880849)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 企業の流動性保有 / 実体的効果 / 経済危機 / 自然実験 / 本邦企業 |
研究実績の概要 |
令和3年度中には、本研究の目的を意識しながら企業の流動性保有に関する理論と先行実証研究を俯瞰する作業を一段と進めた。この作業にはマクロ経済学の分野での先行研究との関連を当初よりもより強く意識するという拡張を行っている。 データセットの構築に関しては、有価証券報告書を公表している一部の非上場企業と全上場企業の財務データに関する大規模なパネルデータの構築をまずは終えている。 そして、同データセットを利用して企業が直面する不確実性が企業の流動性保有に与える影響の分析を実施した。具体的には、不確実性の中でも経済政策の不確実性の影響に注目した分析であり、同不確実性が企業の流動性保有を促すという因果関係を確認した。この分析結果は経済産業研究所より英文のディスカッションペーパー(2021年8月、21-E-069)として公表している。同ディスカッションペーパーのバージョンを国際的なアカデミックジャーナルに投稿しており、現在審査段階において査読者からのコメントを待っている状況にある。 また、データセットの構築においては企業の各種ステークホルダー(株主に止まらない、労働者などの関係者を広く含む)との関係をインデックス化したCSRデータを購入し、同データと上記の企業財務パネルデータとの結合作業に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的を意識しながら企業の流動性保有に関する理論と先行実証研究を俯瞰する作業は、新たに追加したマクロ経済学の分野での先行研究との関連も含めて順調に進んでいる。その過程で実証分析に利用する変数の選定も進めている。 データセットの構築に関しては、有価証券報告書ベースでのデータの構築を急ぎ、企業財務データに関する大規模なパネルデータの構築をまずは終えた。また企業のCSRデータの購入手続きを終えて、企業財務データとの結合に着手できている。 実証分析に関しては、企業の流動性保有動機の検証の第一歩として不確実性の一種である経済政策の不確実性の影響の検証を終えた。同検証の結果には企業金融分野の研究者からコメントを得ることができ、それらコメントから得た知見を利用しながら他に考え得る説明変数の影響の分析に移行する段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度中は、構築済みの大規模な企業財務パネルデータを利用して流動性比率の高低に着目した企業群別の業績、設備投資動向の差異の視覚的および基本統計における特徴の確認を一段と進める。その上で、パネルデータ分析による推計によって実証分析結果を得る予定である。そしてパネルデータ分析での結果を参照しつつ、変数間の複数年にわたる因果関係についてより厳密な実証分析が可能となるlocal projectionsの手法による分析に着手する。並行して、コロナ禍の期間を分析対象として蓄積された企業の流動性保有に関する実証研究から得られた知見の整理と理解を行っていき、当研究プロジェクトに活かすことを試みる。 データセットの構築においては企業と銀行との取引関係に関する情報の反映に加えて、企業のCSRに係るインデックスとの結合を行う予定である。これは経済危機時には流動性保有状況に加えてCSRインデックスで示される各種ステークホルダー(利害関係者)との関係の良好さの差が経済危機の最中とその後の回復局面での収益性や事業拡大の程度に差異を生むとの推察を分析することを目的としている。
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