本研究では,幼児向け算数に焦点を当て,実行機能と幼児向け算数の発達的関連がいかなるものかを発達認知神経科学的手法によって解明することを目的としている。研究初年度は、行動実験を用いて、実行機能と幼児向け算数の関係を検討した。研究2年目は、成人を対象にして、認知的柔軟性の課題と計算課題時における脳活動の関連を検討した。 これらの結果に基づき、研究最終年度である本年度は、5-6歳の幼児を対象に、認知的柔軟性課題と計算課題時における脳活動を近赤外分光法を用いて計測し、その関係を 検証した。具体的には、認知的柔軟性課題として、本領域で広く用いられているDimensional Change Card Sort課題を用いて、ルールを柔軟にスイッチできるかどうかを調べた。さらに、算数課題として、予備的な検討から、計算課題を選定した。この課題では、5-6歳児でも可能と思われる、一桁の足し算を用いた。具体的には、合計値が5以下になる簡単な問題と、合計値が6以上9以下となる比較的難しい問題を含めて、その課題時における脳活動を計測した。 その結果、まず、行動レベルでは、どちらの課題も幼児は高いパフォーマンスを見せ、多くの子どもがほぼ間違いなく正答した。また、課題時の脳活動においては、どちらの課題についても、外側前頭前野の活動がみられた。しかしながら、課題時の脳活動の関係を検討したところ、両者の脳活動には非常に弱い相関関係しか認められなかった。これらの結果は、認知的柔軟性と計算の認知プロセスや脳内プロセスが、少なくとも本研究で用いた課題においては異なるものであることを示唆している。先行研究から、前頭前野の活動は、特に課題の認知的負荷が高い場合に活動しやすいことが知られているため、本研究の課題の成績が高かったことが一つの要因として考えられる。
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