研究課題/領域番号 |
21H00961
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
石野 誠也 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (40812227)
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研究分担者 |
小川 正晃 京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (00716186)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 動機 |
研究実績の概要 |
「期待外れ」の結果が生じてもそれを乗り越えようとする心理は、将来の成功に繋がる重要な機能であるが、その神経メカニズムは不明である。本研究は、従来は期待外れを受入れ行動を弱化するために重要とされてきた中脳ドーパミン(DA)細胞が、主な投射領域の線条体を介し、期待外れを乗り越える動機を高めることを明らかにする。 我々は、そのような動機を強く誘導するラット行動モデルとDA量計測技術を融合することで、期待した報酬がない「期待外れ」の瞬間にDA細胞の活動が増加し、線条体でDA量が増加すること(新規DA信号)を見出している。本年度は、この新規DA信号の活動の意義を解明するため、期待外れを乗り越えようとする度合いと対象が状況依存的に変動する行動課題を新たに開発し、線条体の内で新規DA信号が主に伝わる部位と従来型DA信号が伝わる部位のDA信号の違いを検討した。まず、刺激提示後に自らレバーを操作して確率的報酬を得る課題を訓練し、その後、50%報酬と条件づけした刺激提示後の報酬提示を無くす消去課題を導入した。50%報酬の消去を開始した初期では、刺激提示後に報酬が提示されない瞬間(~1秒)の線条体のDA量増加が大きいほど、その直後に次の試行に移行するためのレバー操作を開始する潜時が短くなった。一方、消去を慢性的に経験するとその相関は無くなった。この結果は、新規DA信号が期待外れを「乗り越える」動機づけに関連することを示すものであり、新規DA信号の活動の意義の解明の重要な糸口となる。さらに、報酬無し試行を一定回数行った後に、報酬あり試行が提示される課題にも取り組んでおり、データを取得中である。今後は、この課題を用いてさらに掘り下げて新規DA信号の活動の意義を解明していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、報酬消去課題を用いて新規DA信号の活動の意義の解明が進み、新たな行動課題におけるデータ取得も進んだため。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究の目的1)期待外れの瞬間の新規DA信号の活動の性質、および、目的2)その信号が線条体の細胞にどのように伝わるのかを解明することに取り組む。 目的1)については、今年度の成果によって、新規DA信号が期待外れを「乗り越える」動機づけに関連する可能性が示唆されることから、新たな行動課題において、この結果を支持する活動が見られるか検討する。この課題では、学習の進行具合によって期待外れを「乗り越える」度合いと対象が変化するため、新規DA信号の活動が学習に伴ってどのように変化するかに着目して解析を行う。 目的2)については、期待外れの際にDA量が増加する線条体において、主細胞タイプであるD1受容体陽性(D1R+)細胞の活動(細胞内カルシウム(Ca2+)量)を1細胞レベルで計測する。具体的には、遺伝子改変ラットとウイルスベクター注入の組み合わせにより、側坐核前側のD1R+細胞選択的に、遺伝学的Ca2+インディケーターを発現し、活動に相関して変化する蛍光強度を、顕微鏡により計測する。各行動課題において、期待外れの際に、線条体でどのような活動パターンを示す細胞が存在するのかを検討する。
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