研究課題
「期待外れ」の結果が生じてもそれを乗り越えようとする心理は、将来の成功に繋がる重要な機能であるが、その神経メカニズムは不明である。本研究は、従来は期待外れを受け入れ行動を弱化するために重要とされてきた中脳ドーパミン(DA)細胞が、主な投射領域の線条体を介し、期待外れを乗り越える動機を高めることを明らかにする。我々は、そのような動機を強く誘導するラット行動モデルと最先端のDA活動計測技術を融合することで、期待した報酬がない「期待外れ」の瞬間にDA細胞の活動が増加し、線条体でDA量が増加すること(新規DA信号)を見出している。本年度は、この新規DA信号の活動の意義を解明するため、報酬無し試行を一定回数行った後に、報酬あり試行が提示される課題(報酬無し試行回数固定課題)の開発を進め、行動と神経活動のデータ取得を開始した。行動に関しては、報酬が無い回数が一定回数続くことを学習する前は各試行間の行動に差が無かったが、学習が進むにつれ、各試行間の行動の差がはっきりした。特に報酬提示が無い直後の次の報酬獲得に向けた行動の切替えにおいて、差がはっきりすることを見出した。神経活動に関しては、新規DA信号が主に伝わる部位(側坐核前側)と従来型DA信号が伝わる部位(側坐核後側)のDA信号の学習過程における違いの検討を開始した。また、新規DA信号を伝える前側側坐核に投射するDA細胞の活動を、期待外れが生じる瞬間に光遺伝学法で刺激したところ、期待外れを乗り越える行動を高める因果的役割を示すことにも成功した。以上の結果を論文として発表した(Ishino et al., Science Advances, 2023)。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、新規DA信号が行動に果たす役割の理解、新規DA信号の活動の意義の理解が進んだため。
新規DA信号の活動の意義の解明を進める。今年度までに開発した行動課題と新規DA信号が主に伝わる部位(側坐核前側)と従来型DA信号が伝わる部位(側坐核後側)におけるDA量の変化を計測することで、各個体の学習の度合いと各部位におけるDA量変化の関係についてデータ取得と解析を進める。また行動とDA量の相関についても検討・解析し、学習度合いの影響についても検討する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Science Advances
巻: 9 ページ: 1-19
10.1126/sciadv.ade5420