研究課題/領域番号 |
21H01016
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
大畠 悟郎 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10464653)
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研究分担者 |
溝口 幸司 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (10202342)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 密度行列 / 量子もつれ / 励起子分子 / 量子コヒーレンス / 非線形分光 |
研究実績の概要 |
本研究では,これまで我々が独自に開発してきた「密度行列分光」(DMS)の技術を発展させ,量子もつれを分光学的に測定,定量化する技術を開発する.特に半導体中の電子状態に対する量子もつれを測定し,更にその時間変化,すなわち「量子もつれダイナミクス」を調べることを目的としている.また,着目するのは偏光と周波数の二つの物理量についての量子もつれであり,それぞれDMSで用いる技術も異なる.従って,これらを独立して進めている.下記に本年度の主な研究成果を示す.
[I]偏光量子もつれに着目した励起子分子の量子もつれダイナミクス: 半導体CuCl中の励起子分子に内在する量子もつれについて,四光波混合型のDMSを開発し詳細な測定を行った.得られた励起子分子の量子もつれの時間変化は,従来の指数関数的な減衰信号とは大きく違い100ピコ秒以上の間ほぼ変化のない特異な形状を示すことが判明し,これについて解析を行った.またシグナルが微弱なところまでを詳細に定量化し,温度60Kまでの測定に成功した.
[II]周波数量子もつれに着目した励起子分子,2励起子重ね合わせ状態のダイナミクス: 周波数(時間)領域の量子もつれについて新たに着目した周波数領域DMSの実験を開始した.波長約390nmと約790nmの2つの波長領域において偏光の射影基底と類似した2周波数重ね合わせパルス(射影基底)の生成を行い,これらを用いて周波数領域におけるDMSの実験系を構築した.初年度ではあるが,既に2励起子(重い正孔励起子・軽い正孔励起子)間の重ね合わせ状態についての密度行列の定量化に成功しつつあり,初期的な結果を得るに至った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
半導体CuCl中の励起子分子に内在する量子もつれについて,四光波混合型のDMSを用いて詳細な測定を行った.具体的には密度行列からTangle(量子もつれの度合いを示す量)を算出し,その時間変化を得た.結果は,従来の四光波混合の減衰信号とは大きく異なり,100ピコ秒以上の間ほぼ変化のない特異な形状を示した.これについて,量子もつれの純粋状態と完全混合状態が混ざりあった量子状態モデルの一つであるWerner状態を仮定し解析した結果,1ナノ秒を超える長い時間で量子もつれが保持されている可能性を見出した.またシグナルが微弱なところまで詳細に定量化できるようになり,温度60Kまでの測定に成功し,60K以上の温度においても優位に量子もつれ状態が保たれていることを初めて明らかにした. 周波数領域DMSの実験においては,波長約390nmと約790nmの2つの波長領域における,2周波数重ね合わせパルス(射影基底)の生成が必要である.そのため,4F分光光学系と空間光変調器(SLM)を用いた光学系によって新たにこれらのパルスを生成した.また,スペクトル干渉法の系を構築し,強度・位相スペクトルを測定してこれを評価した.これにより,周波数領域DMSに必要な重ね合わせパルスの生成に成功したことを確認した.さらに,これを用いてGaAs量子井戸に対してポンプ・プローブ型の周波数領域DMSを行い,重い正孔励起子・軽い正孔励起子からなる2励起子間の重ね合わせ状態の密度行列とその時間変化について,初期的な結果を得た. 以上,それぞれの実験が各段階で成功してきており,概ね順調と考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,引き続き以下の内容を推進する.
[I]偏光の量子もつれについて:これまで着目してきたものとは別の励起子分子の散乱・緩和過程についての実験を開始する.このために散乱過程における位相整合条件を詳細に変化させる実験的工夫を行う予定である.具体的には,これまで開発してきた四光波混合型のDMSについて波長分解,及び角度分解の実験系を構築し実験する.これにより,例えば励起子分子が励起子と光子の対として崩壊した場合その後どのように量子もつれが変化するか等を定量化することが可能となり,固体中に発生した量子もつれの変遷を明らかにすることが期待できる.
[II]周波数量子もつれについて:まず2励起子の重ね合わせ状態についての研究は,さらに高精度化し密度行列のダイナミクス解明と温度変化による量子状態の緩和・散逸の様子を明らかにする.そのために,光学系の更なる安定化と,S/N比向上の実験的工夫を行う予定である.また,励起子分子の周波数量子もつれについての研究では,前年度より開発している光学系を用いて周波数領域の密度行列を測定し量子もつれに関する測定,議論を行う.これについては,使用している約390nm波長領域における周波数重ね合わせパルス生成光学系についての高効率化とビーム形状品質の向上が必要であり,実験的工夫を行う予定である.
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