本研究では,物質の密度行列を測定する分光手法である「密度行列分光法(DMS)」を用いて,固体中の電子状態(特に励起子系)に関する量子もつれの物性とダイナミクスを実験的に究明することを目的とし,具体的には以下大きく分けて3つの結果を得た. (1)半導体CuClにおける励起子分子及び励起子・光子に内在するスピン・偏光量子もつれとそのダイナミクス:励起子分子におけるスピン量子もつれについては,四光波混合型のDMSから量子もつれの時間変化の測定に初めて成功した.従来の四光波混合信号とは大きく異なり,時間の経過の中で生き残った励起子分子は直感に反して量子もつれを長時間保持し続けていることを明らかにした.特に,温度依存性を丁寧に測定し,60Kを超える温度においても明確に量子もつれが保持されていることを見出した.また,励起子分子が励起子と光子に散乱・分裂する過程に着目し,励起子・光子のスピン・偏光量子もつれの測定に初めて成功した. (2)励起子分子についての周波数量子もつれ:本実験では近紫外の2周波数に限定した周波数領域DMSを新たに開発しこれを用いて励起子分子における励起子間の周波数量子もつれを測定し初めてこれに成功した.得られた結果では量子もつれの度合いを示すTangleは0.7を超え,明確に量子もつれの状態にあることを初めて明らかにした. (3)2励起子重ね合わせ状態の量子コヒーレンスの測定とその時間変化:近赤外の2周波数に限定した周波数領域DMSを開発し,GaAs多重量子井戸における2励起子(重い正孔励起子/軽い正孔励起子)の重ね合わせ状態に関する密度行列の時間変化測定についても初めて測定した.密度行列から"量子コヒーレンス"を直接定量化し,その時間変化を明らかにした.
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