研究課題/領域番号 |
21H01019
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
若林 克法 関西学院大学, 工学部, 教授 (50325156)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | トポロジカル物質 / 遷移金属ダイカルコゲナイド / 原子膜物質 / シフト電流 / 高次トポロジカル状態 / 非線形光学応答 / NbSe2 / 円偏光 |
研究実績の概要 |
グラフェンや遷移金属カルコゲナイド系物質(TMDC)などの系の厚さが一原子層である原子膜物質では、エッジや表面などによって、特異な電子物性が発現する。さらに近年、物質科学をトポロジー(位相幾何学)という数学概念で捉え直すことで、結晶中のブロッホ電子が有する波動関数の位相情報によって、エッジ・ヒンジ・コーナーなどの物質境界に出現する特異な局在状態が規定されることがわかってきている。エッジやコーナーなどの境界での波動関数の局在は、ナノスケール材料における局在磁性や完全伝導チャンネルの起源となる一方、フォトニクス結晶の言葉に焼き直せば、光の局在(閉じ込め)や高効率光伝搬に対応する。これらトポロジカルに保護された状態は、新しい電子・光デバイス設計への源泉となるものである。 本研究では、二次元原子膜の電子波動関数が有するトポロジーに着目し、物質の機能を設計する理論を整備する。さらに、原子膜物質で得られた知見を、より実装しやすい電磁場系に展開を図り、フォトニック結晶の設計へと繋げる。原子膜物理とフォトニクスを分野横断する研究を推進し、新しい光・電子デバイスのベースとなる基礎物性の理論的解明へと貢献する。本研究課題によって、二次元原子膜物理からフォトニック系にわたる、新たなトポロジカル状態の発見や制御の指針を提示する。さらに、「トポロジカル機能設計」の基礎学理の構築に貢献する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、TMDC膜と光との相互作用に着目し、光照射による電子励起を活用したスピン状態の生成と制御機構、さらにはトポロジカル特性について、理論的に検討を進めてきた。具体的には、NbSe2を考え、電磁場照射によって、電荷流およびスピンホール流を線形あるいは非線形光学応答の機構を用いて、励起できることを数値的および理論的に示した。NbSe2は、金属的な性質を示すTMDCであり、低温では超伝導転移をすることが知られている物質である。特に、単層NbSe2は空間反転対称性が破れていること、さらにNb原子由来のスピン軌道相互作用からNbSe2はイジング型スピン軌道相互作用を有することが知られている。我々は、前年度に、Nb原子が有する三つのd軌道に着目し、第一原理電子状態計算の結果を再現する有効タイトバインディング模型を構築した。さらに、線形応答理論に基づく久保公式を適用することで、電磁場照射による光学的スピン・電荷ホール伝導度を数値理論的に解析した。本年度は、少数層NbSe2に対して、二次の非線形光学応答効果とその偏光依存性を求めた。特に、結晶の対称性を操作する2円偏光を照射したとき、NbSe2の鏡面対称性を破るため、非線形光学効果が偶数層NbSe2でも誘起される。さらに、奇数層NbSe2では、トポロジカルシフト流が生成されることがわかった。これらのことから、金属TMDC系物質は、光スピンデバイスへの応用が期待される。 上記の他に、ジョージア工科大学と共同研究を実施し、SiC基板上に作製されたグラフェンナノリボンの電気伝導特性とそのゲート電界効果について理論的解析を行なった。また、新しい二次元物質であるbiphenylene network (BPN)の電子状態に関して、タイトバインディング模型による解析と第一原理計算による解析を行い、そのトポロジカル特性を明らかにした。さらに、BPNから着想を得たトポロジカルフォトニック結晶の設計を行い、その電磁場特性を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
TMDCの他にも、モノカルコゲナイド系の二次元物質における非線形光学応答に関する理論解析を進める。光による電子流およびスピン流の新しい駆動機構の理論的に探求する。また、二次元物質のトポロジカル特性の研究成果から新しいトポロジカルフォトニック結晶の理論設計を進めるとともに、そこでの電磁場特性を解明する。上記の事柄を推進することで、トポロジカル機能設計の基礎学理の構築に貢献する。
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