研究課題/領域番号 |
21H01035
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
吉田 紘行 北海道大学, 理学研究院, 教授 (30566758)
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研究分担者 |
鳴海 康雄 大阪大学, 大学院理学研究科, 准教授 (50360615)
井原 慶彦 北海道大学, 理学研究院, 講師 (80598491)
石井 裕人 東京大学, 物性研究所, 助教 (40897211)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ブリージングカゴメ反強磁性体 / 1/9プラトー |
研究実績の概要 |
本研究課題は1/9磁化プラトーを示す古典カゴメ反強磁性体Li2Cr3SbO8においてブリージング異方性および量子性を摂動パラメータとして制御し、それらが磁気状態にどのような影響を与えるのかを明らかにし、カゴメ反強磁性体研究の新たなフロンティアの開拓を目指すものである。2022年度は、特に単結晶育成と関連物質探索研究において、重要な成果を得る事に成功した。 1. Li2Cr3SbO8の単結晶育成と新規モデル物質の開発に成功した。2021年度までに、100 μm程度の微小単結晶を得ることに成功していたが物性評価を行うにはまだ不十分なサイズであった。2022年度はフラックスの選定をはじめとする結晶育成条件を最適化することで、より大きく結晶を成長させることができ、現在までに最大で300 μmの単結晶を得ることに成功している。現在のところ、単結晶一粒での物性評価を行うには至っていないが、いくつかの結晶を方位を揃えて並べることで異方性測定や精密物性評価につながる成果と考えられる。
2. Li2Cr3SbO8のCr3+イオンをより大きなスピンを有するMn3+(S = 2)とFe3+(S = 5/2)に置換した関連物質の粉末試料合成に成功した。これらの試料の物性を調べることで、ブリージングカゴメ反強磁性体で生じる1/9プラトーの安定性に対する量子性の効果を明らかにすることが可能となる。次年度以降の物性評価で、これらの物質群の磁化、比熱、強磁場磁化過程を調べることにより、1/9プラトーの安定性についての量子性の効果を明らかにしたい。また、精密構造解析とDFT計算により、MnおよびFe化合物のブリージング異方性の大きさも合わせて評価することで、本系の物性の総合的な理解につながると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究によりLi2Cr3SbO8の粉末試料に対する磁化・比熱・磁化過程・磁気構造解析などの基本的な物性評価は概ね完了しており、本物質で現れる1/9プラトー状態の起源を解明するには、単結晶における研究の進展が求められていた。2022年度は、2021年度の研究で初めて得られた微小単結晶を、より大きく成長させることを最も重要な目標と定めて研究を行なった。その結果として、これまで100 μm程度であった単結晶を最大で300 μmまで成長させることができた。全ての物性評価をこのサイズの単結晶で行うことは出来ないが、一方で結晶を並べることで基礎的な磁化や比熱の異方性測定を行うことを可能とする。これは本研究の目的の達成に向けて、大きな前進である。また、化学修飾によってスピンの大きさ(量子性)を制御した試料の開発にも成功した。これら単結晶、置換試料を用いることで、最終年度は異方性の解明、NMRによる微視的磁性の解明、圧力効果の検証、1/9プラトーに対する量子性の効果の検証実験を進め、ブリージングカゴメの物理の解明に貢献したい。 以上の理由から、2022年度の研究は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
物性評価可能なサイズの単結晶が得られたため、当初の研究計画に基づき、物性評価を進める。まずは、磁化・比熱などの基本的な物性を評価し、さらに異方性の検証を進める。また、単結晶を用いたNMR測定を行い、微視的な磁性を解明する。物理圧力を用いたブリージング異方性の制御と、それによる1/9磁化プラトーの性質解明にも取り組むが、現段階でもまだ十分な大きさの単結晶とはいえないため、特に1/9プラトーが生じる強磁場中での圧力効果の検証には困難を伴うと予想される。圧力セルによるバックグラウンドと微小結晶試料からのシグナルのS/Nの確認など、予備的な測定から開始する予定である。一方、Mn, Fe置換試料については基礎物性を明らかにし、量子性が1/9プラトーに与える影響を確認する。現在までに、300 μmの単結晶が得られているものの、詳細な物性を明らかにするには、より大型の単結晶が必要になる。最終年度においても、単結晶育成条件の最適化を進め、可能な限り大きな試料を用いた物性評価を進める予定である。
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