研究課題/領域番号 |
21H01042
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
小林 達生 岡山大学, 自然科学学域, 教授 (80205468)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マンガン / 磁気秩序状態 / 高圧 / 異常ホール効果 / 磁気ゆらぎ |
研究実績の概要 |
本研究の最重要課題は、Mn単体の室温での安定相であるα-Mnの常圧および高圧下での磁気秩序状態を明らかにすることである。当研究グループでは、α-Mnにおいて二つの磁気秩序相からなる圧力-温度相図を示すことを発見し、常圧近傍は反強磁性(AFM)相であり、高圧相は弱い強磁性(WFM)相であることを明らかにしている。 2021年度は原子力機構との共同研究により、J-PARCで高圧下WFM相での中性子散乱実験に成功した。その結果、WFM相では核散乱以外に新たな散乱ピークは現れないことから、スピン構造は強磁性であることが明らかになった。この結果は、WFM相で現れる異常ホール効果がベリー曲率に起因することを強く支持する。現在、スピン秩序構造の詳細の解析を進めており、今後高圧下ゼロ磁場NMRの結果と合わせて、WFM状態の全貌を明らかにする。 一方、常圧のAFM状態については、1972年にゼロ磁場NMRで観測されたスペクトルの解釈ができていなかった。昨年度、試料の純良性の向上により、従来得られている結果とは質的に異なるスペクトルが得られ、その全貌が明らかになった。(島根大との共同研究)この結果は、1970年代に行われた中性子散乱実験で提案されているスピン秩序構造では説明できない。今後中性子散乱実験を行い、NMRの結果と合わせてスピン構造を明らかにする必要がある。(原子力機構との共同研究)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高圧下WFM相の中性子散乱実験は予定通り行われ、異常ホール効果はベリー曲率に起因することが明らかになった。常圧のAFM相のゼロ磁場NMRでは1972年以来説明されていない謎があったが、問題視されていなかった。今回、純良単結晶で実験を行うことにより、決定的なスペクトルを得ることができ、従来のAFM状態が間違っていることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
1.中性子散乱・ゼロ磁場NMRによるAFM相の磁気秩序状態の解明: 常圧のAFM相のスピン秩序構造が間違っていることが明らかになったため、中性子散乱実験を行いこれを解明することが急務となった。NMRの結果と合わせてスピン構造を明らかにする。 2.圧力誘起WFM相の磁気秩序状態の解明: J-PARCで行った高圧下WFM相での中性子散乱実験の結果から、現在さらにスピン構造の詳細の解析を進めている。ゼロ磁場でのNMR測定結果と合わせて、スピン構造を明らかにする。 3.NMR・比熱・磁化測定による量子臨界現象(磁気ゆらぎ効果)の研究: 量子臨界点近傍では電気抵抗が強磁性ゆらぎで期待される温度依存性を示す。最近接原子間の相互作用は反強磁性的であると考えられ,他の物理量でのゆらぎ効果の観測が重要である。磁化・比熱においても量子臨界現象が期待できるため,量子臨界点近傍で極低温までの測定を行ない,磁気ゆらぎ効果を探索する。 4.電気抵抗測定による超伝導探索: 量子臨界点近傍で超伝導探索を行ったが、50 mKまでの温度範囲で超伝導は現れなかった。量子臨界点近傍では大きな磁気ゆらぎのために、重い電子状態が実現している。さらなる高圧下ではゆらぎが抑えられて非磁性金属状態に近づくことが期待されるため、有効質量の圧力変化を明らかにするとともに超伝導探索を行う。
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