研究課題/領域番号 |
21H01057
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
大原 渡 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (80312601)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | プラズマ・核融合 / 水素イオン性プラズマ / ダイポール磁場 |
研究実績の概要 |
水素プラズマ流中にダイポール磁場を形成すると,正負イオンのみから構成される水素イオン性プラズマが,磁場に保護されて安定して維持されるのかを明らかにしようとしている.2つのプラズマ源を接続したタンデムプラズマ源を用いて,プラズマ電位勾配をつけて正イオンを加速入射して,水素バルクプラズマに正イオン流を重畳させた.磁石を埋め込んだ直径6 cmのアルミニウム球電極を,水素プラズマ流中に設置した.地球近傍の磁束密度・電子温度と,Al球電極近傍のパラメータを比較すると,Al球電極は直径6 km程度の小惑星に相当する.地軸の傾きは0°として,プラズマ源は赤道昼間側で,下流方向の夜側までAl球電極周囲のプラズマ分布を測定した.南北方向に長さ11 cm,昼夜方向に長さ20 cmの2次元断面分布をプローブで測定できるように改良した(2021年度はそれぞれ7 cm,14 cm). 水素プラズマがAl表面に照射されると,負イオンが表面近傍に形成される.負イオンが,周辺プラズマのどの領域に多く存在しているのかを調べた.極域の昼間側の磁力線に沿って,プラズマがAl球電極へ流入しており,夜側の磁力線に沿って下流域へ負イオンが流出していることが明らかになった.地球周辺環境におけるVan Allen帯のInner beltとOuter beltに相当する領域のプラズマ密度は高いが,当初の予想とは異なり,Outer beltの負イオン存在割合は低いことが明らかになった.一方,Inner beltに相当する領域には,負イオンが多く存在している. Alを用いた場合の水素負イオン生成に関係して,電場の印加や光照射を行って,プリカーサーの崩壊に伴う電子生成について調べた.Al電極電圧や電場強度に強く依存して電子が生成され,紫外帯域の光照射で光脱離することが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
プラズマ2次元断面分布を測定するための,ラングミュアプローブ掃引システムを改良した.前年度と比較して,昼夜方向に1.4倍程度,南北方向に1.6倍程度広い領域の測定ができるようになった.また,電極表面から2 mm程度までの近距離周辺プラズマを計測できるようになった.より広範囲の測定ができるようになったため,極域から下流域へ負イオンが流出する様子や,Van Allen帯に相当する領域全体が測定できた.ただし,極域方向への測定範囲がまだ狭く,更に測定可能領域を広げる必要がある. Alを用いた水素負イオン生成機構の解明に関して,まずは電子が発生する条件の探索を行った.Al電極電圧と電場による崩壊条件は明らかになった.崩壊するプリカーサーの種類や,崩壊後に生成されるイオン種を明らかにするため,40 amu程度まで測定できる質量分析器の開発を並行して進めた.電磁石コイルの強磁場化,扇形鉄心の製作などはできたが,粒子軌道を収束させるアインツェルレンズの配置が不適切だと思われ,高質量イオンを計測できていない.また,分解能向上のためコレクタ電極サイズの大型化も必要である. 昨年度に波動伝搬特性を調べて,後進波が存在することは明らかになった.しかし,不純物イオンであるAlが関係するイオンが存在していると考えられるため,現プラズマにおける波動伝搬測定は行わなかった.なお,新たな試みとして,赤外-可視-紫外帯域の,離散的な波長の光をプラズマへ照射して,崩壊による電子生成を調べた.水素負イオンは,赤外-可視帯域で光脱離しやすいことが知られている.ここでは紫外帯域(365 nm)で光脱離しており,水素負イオンの光脱離ではないことが明らかになった. 以上のように,イオン質量分析の開発と,波動伝搬特性の測定に遅れが生じているため,やや遅れていると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
地磁気のある小惑星を模擬して,流れのある水素プラズマ中にダイポール磁場が印加されたアルミニウム球電極を設置して,その周辺プラズマを計測している.南北方向へのプラズマ測定範囲は11 cmに拡大したが,この方向の装置長は25 cmなので半分以下しか測定できていない.プローブ駆動には直線運動する電動スライダーシステムを利用しているが,ストロークをあまり大きくできない.装置サイズぎりぎりの電動スライダーを使用するか,直角運動など駆動機構を工夫することにより,測定範囲が15 cm程度以上となるよう改良したい. 新規の水素負イオン生成プロセスを見出しつつあるが,実証するためには高質量の質量分析が欠かせない.質量分析器の磁場系は改良されたが,軌道収束レンズの適切な配置と,コクレタ電極サイズの大型化を行い,質量分解能を高める予定である.また直径4 cmに大型化した水素イオン性プラズマを生成するため,直径の大きなAl電極の製作は完了している.引出孔を通過したプラズマへ光照射して,電子の光脱離のみではなく,光崩壊でイオン生成されるのかを,質量分析器と組み合わせて解明する. Alが関係する分子イオンは不純物イオンといえるので,電場印加や光照射など能動的に崩壊を促進させる必要がある.さらに,Al電極の材質や金属結晶構造に依存して,生成される分子イオン種が異なると予想される.水素負イオンを生成するのに有利な分子種を見出して,水素負イオン生成量の増加を試みる.この新規水素負イオン生成プロセスでは,不純物イオンの存在を無くすことはできないと考えられる.水素正負イオンのみが通過できる,四重極質量分析の原理を利用したイオンフィルターの開発も検討する.
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