研究課題/領域番号 |
21H01074
|
研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
栗田 弘史 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70512177)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 大気圧プラズマ / プラズマ医療 / プラズマ生物応用 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、大気圧プラズマの生物・医療応用における細胞応答機構の解明を目的としている。これまでに研究代表者は、プラズマ照射の安全性の観点からも重要なDNAへの影響に注目している。ゲノムDNAの鎖切断・塩基修飾とプラズマ照射の関係について調べ、鎖切断が生じないような低強度プラズマ照射であっても塩基修飾 (8-オキソグアニン:8-oxoG)が生じることを示した。このとき細胞生存率はほとんど低下しなかったことから、DNA修復機構が活性化していると考えた。しかし、実際に8-oxoGが修復されているかどうか不明であったため、初年度はまずプラズマ照射によってゲノムDNAに生じた8-oxoGがプラズマ照射後に修復されるかどうかを調べた。プラズマ照射した細胞のゲノムDNAにおける8-oxoG生成を免疫染色により解析した結果、8-oxoGが生成されていることが示唆され、また、抗酸化剤処理した細胞群では8-oxoGレベルが抑制された。続いて、プラズマ照射後の細胞懸濁液を細胞培養液に置換して所定の時間培養した後で8-oxoG生成を解析した結果、プラズマ照射直後と比較して8-oxoGレベルの低下が認められ、プラズマ照射後の細胞でDNA損傷が修復されていることが示唆された。また、ここで確立した実験系を用いてこれまでに解析例がほとんどないミトコンドリアDNAについても解析した結果、ゲノムDNAだけでなくミトコンドリアDNAにも塩基修飾が生じることが示された。さらに、核膜で覆われたDNAに塩基修飾がプラズマ照射によって生じているならば、核外にも存在するRNAに塩基修飾が生じていると考えて解析した結果、RNAにも塩基修飾が生じることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初の計画通り、細胞内ゲノムDNAに生じる塩基修飾の定量的解析が可能な実験系を確立し、プラズマ照射により塩基修飾が誘発され、修復されることを明らかにした。また、確立した実験プロトコルを応用して、研究開始当初計画しておらず、またこれまでにほとんど調べられていないミトコンドリアDNAの損傷についても解析した。RNA損傷については、分子生物学分野でも発展途上であり、研究手法や知見が十分に確立されていないが、初年度の研究でプラズマ照射によってRNAにも損傷が生じることが示唆された。しかし、DNA塩基修飾の修復について、どのDNA修復酵素が機能しているかを分子生物学的手法により解析したが同定には至らなかった。以上を勘案しておおむね順調に進行していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
DNA塩基修飾の修復反応については、前年度に引き続き修復酵素の同定を試みる。また、RNA損傷については、細胞内には多種多様なRNAが存在するため、今年度はどのRNAがどのような損傷を受けているのか詳細に調べ、細胞応答との関連を明らかにする切り口としたい。細胞内にはさまざまな機能を持ったRNAが存在するが、それぞれサイズが異なるため、ゲル電気泳動後のRNAの膜への転写と、抗体を用いた検出を組み合わせた方法を用いれば、細胞内のどのRNAが損傷を受けているか、 また抗体の種類を変えることでどのような損傷が起きているかを計測することができると考えられる。これを可能にする実験系の確立を目指す。
|