大気圧低温プラズマの医療や農業への応用に関する研究が広く行われている。本研究課題では、大気圧低温プラズマをヒトやマウス由来の培養細胞に照射し、その細胞応答機構を解析している。特に、比較的強度の低いプラズマを照射した際に潜在的に生じる影響に注目して研究を推進している。 2022年度までに、細胞生存率を顕著に低下させないようなプラズマ照射であっても、酸化的核酸損傷の一種である塩基修飾 (8-オキソグアニン:8-oxoG)がゲノムDNA上に生じること、さらにはミトコンドリアDNAやRNAにも塩基修飾が生じることが示された。また、大気圧低温プラズマの細胞懸濁液への直接照射が、細胞内の活性酸素レベルが増大させるメカニズムについて検討し、細胞膜穿孔とは異なる経路を介して活性酸素レベルが増強されている可能性が示唆された。 2023年度は、前年度に引き続き、細胞内のRNA損傷について研究を進めた。その結果、本研究で用いたプラズマ照射では、RNAの顕著な分解は細胞内で生じず、塩基修飾は種々のRNAに生じ、特異性は低いことが示唆された。また、上記のように細胞生存率が顕著に低下しないプラズマ照射でも細胞内に変化が生じることを既に報告したが、生細胞膜透過性のない死細胞染色試薬で染色された細胞を死細胞と見做して算出した細胞生存率で比較すると、プラズマ未照射群と比較してほとんど変化がないにもかかわらず、細胞増殖が抑制され、数日にわたりその状態が維持されるプラズマ照射条件を見出した。低強度プラズマ照射が細胞の死滅ではなく、「細胞増殖停止」という状態を誘発する可能性が示唆された。
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