研究課題/領域番号 |
21H01094
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
平木 貴宏 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任助教 (40791223)
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研究分担者 |
依田 芳卓 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 精密分光推進室, 主幹研究員 (90240366)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | トリウム229 |
研究実績の概要 |
岡山大学で構築したトリウム229第一励起状態(アイソマー状態)からの脱励起真空紫外光を観測するためのセットアップをSPring-8施設に持ち込み、真空紫外光探索実験を行った。この実験で使用した標的にはウィーン工科大学の共同研究者のグループが開発した229ThをドープしたCaF2結晶を主に使用した。真空紫外領域で波長選択性のある特注のミラーを制作し、過去に使用していたバンドパスフィルターと比較して検出効率を高くしたうえで効率よく背景事象を削減した状態で実験を行った。当該年度の実験では有意な信号は観測されなかった。 真空紫外光探索実験で標的から放出された真空紫外光の検出効率を評価するためのシミュレーションを行った。この結果、アイソマー状態がCaF2結晶から100%の確率で真空紫外光を放出する場合、観測される信号の期待値が実験結果と矛盾することが示唆された。 それ以外にもカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究者が作成した229ThをドープしたLiSAF結晶や、大阪大学の研究者が開発したThF4標的を用いて真空紫外光探索実験を行った。LiSAF結晶を用いた場合、トリウム229やその娘核が崩壊する際に発生する真空紫外領域の背景事象(radioluminescence)を本実験で観測したいアイソマー状態からの脱励起信号と区別することが困難なため、感度が悪いことが明らかになった。有意な信号は観測されなかった。ThF4標的を用いた場合、予想していなかった背景事象の時間変動が存在することが分かったため、背景事象の評価が困難であることが分かった。この標的を使用した場合でも有意な信号は観測されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光学部品製造メーカーに依頼して真空紫外領域で波長選択性のあるミラーを複数制作した。 これにより、photoluminescence, radioluminescenceの背景事象を効率よく除外することが可能になった。 またその波長ごとの反射率を測定するセットアップを岡山大学で制作し、実際の反射率を測定した。 SPring-8での当該年度の実験を予定通り遂行した。 真空紫外光が観測されない原因についてはいくつかの理由が考えられ、その一つが放射線による結晶のダメージである。ビームラインのモノクロメータセットアップを変更することで放射線ダメージの影響を削減できることが分かっている。ビームライン上流に設置しX線ビームのエネルギーを狭窄化する新規モノクロメータの設計は予定通り完了した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は新規モノクロメータを実際にビームラインに設置し、X線ビームのエネルギー幅をトリウム229の核共鳴散乱法を用いて実データで評価した後トリウム229アイソマー状態からの真空紫外光の探索実験を引き続き行う。 これにより、実験に使用している標的の放射線によるダメージを削減した状態での実験の遂行が可能になる。 実験セットアップの真空度が期待より悪いため新しい真空ポンプを購入して真空度を改善させる。
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