研究課題/領域番号 |
21H01099
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
中村 浩二 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助教 (00554479)
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研究分担者 |
原 和彦 筑波大学, 数理物質系, 研究員 (20218613)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | LGAD / 半導体 / 飛跡検出器 / 高時間分解能 / AC-LGAD |
研究実績の概要 |
現在、我々が開発中の増幅機能付き半導体検出器(LGAD)は、世界最高レベルの検出時間分解能(20ps)が達成可能な半導体検出器である。本研究課題はこの検出器に検出位置分解能を持たせること、放射線耐性を改善させることを目的としている。検出位置分解能に関しては、検出位置による一様性を担保したまま電極を細密化することが可能となる静電容量型LGAD検出器(AC-LGAD)を開発した。AC-LGAD検出器はセンサー全体で一つの増幅層を配置し、細密化されたアルミ電極から信号をAC 的に読み出すことで位置分解能を得る。増幅層の不純物濃度の条件振りを繰り返した末、電極の細密化が可能な最適な不純物濃度を発見した。この結果、ストリップ型検出器ではストリップ間隔が80umまで、ピクセル型検出器ではピクセル間隔が100umまでの細密化に成功した。また、LGAD検出器の時間分解能は荷電粒子通過によるイオン化エネルギーの損失が深さ方向に一様でないことから起こる電荷収集ノイズと呼ばれる効果が大きく、50um厚のセンサーでは30ps程度の時間分解能が限界であった。そこで、30um厚、20um厚と有感層が薄いセンサーを試作し、時間分解能を測定した結果20um厚の検出器で20psの時間分解能を実現することができた。さらに、放射線耐性の改善に関しては、放射線損傷による増幅層のp型半導体部のアクセプタリムーバルと呼ばれる現象が致命的な影響を及ぼすことを突き止め、1)補償型、2)部分不活性型、3)炭素アニーリング法の3つの解決策のアイデアを試す試作を行った。いずれの方法も改善は十分ではなく、さらなる改善が必要である。本試作は照射試験を行い放射線耐性の試験を継 続しており、特に1)+3)の方法を有力視して試作を進めている。また、2cm角の大型センサーの製造もおこない、増幅率の一様性の確認を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の研究計画である、a) 電極細密化、b)放射線耐性、c)大型化とASIC開発の3段階の開発計画のうち、a)およびc)に関しておおむね予想通りの成果を上げることができた。これは当初の計画通りであり、現在b)に関する研究は難航しているものの、改善を示す試作もあり、条件だしの再検討及び試作を行っている。本研究の最後に、米国Fermi研究所においてテストビーム実験を計画していたが、ビームがなく行えず、一部予算の繰越を行ったが、国内の代替施設を用いるなど工夫を行い、研究の遅れを最小限にとどめた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画は、テストビームを用いた検出器最終検査を残すのみとなっている。一方で本研究計画を遂行する中で浮き彫りになった二つの問題に関して本科研費課題の枠を超えて研究を推進していく予定である。1)放射線耐性を改善する3つのアイデアの最適化、2)検出器の読み出しエレクトロニクスの開発。1)に関しては、2023年度までに行った試作で改善の可能性が見られたアイデアの最適化を最優先で行い、1MeV中性子換算の放射線損傷で5e15/cm2相当の損傷まで耐えうる検出器を作る。また、現状改善の見られない部分不活性型に関しても、ウェファー内の酸素不純物濃度を低くすることで改善の可能性があることを質量分析を用いて突き止めた。この試作も並行して行う予定である。2)に関しては、2024年3月に大型センサーの試作と高輝度LHC実験用のピクセルASICとの接続が完了しており、評価を開始したところである。隣接する電極間のインピーダンスが大きいことで、ノイズの増加がみられたため、その改善を行うこと、さらに増幅率の一様性を試験することを計画している。また、現在、ジュネーブ大と共に開発中のASICや、ATLAS/CMS/EIC実験用に開発されているASICを用いた読み出し試験も進行中である。
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