研究課題/領域番号 |
21H01114
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
栂野 泰宏 立教大学, 理学部, 助教 (20517643)
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研究分担者 |
中村 隆司 東京工業大学, 理学院, 教授 (50272456)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 実験核物理 / 中性子過剰核 / 中性子捕獲反応 / 元素合成 / 不安定核 |
研究実績の概要 |
鉄より重い重元素の起源には未だ謎に包まれている。重元素起源の解明には中性子過剰な放射性同位体の中性子捕獲反応率の決定が欠かせないが、その測定は実験的難度が高く、これまでほとんど行われてこなかった。本研究はその中性子過剰核の中性子捕獲反応率を間接的に高効率で測定する新手法を確立し、その新手法を用いて重元素合成に最も重要な中性子捕獲反応率を決定することに挑んでいる。 本研究の新手法の実現のためには、中性子過剰核の1つの陽子をノックアウトする反応から放出される散乱陽子と、反応生成物からの脱励起ガンマ線の同時測定を可能とする実験装置が必要となる。散乱陽子と脱励起ガンマ線はほぼ同じ位置で検出する必要があることに加えて、散乱陽子のエネルギーが脱励起ガンマ線のエネルギーより約100倍大きい。よってその同時測定には1つの検出器からの信号を2つに分け、増幅率の異なる2つの回路で信号処理をする"デュアルゲインシステム"が必要である。 令和3年度は既存のガンマ線検出器CATANAに用いられている120個のシンチレータ検出器の光電子増倍管の回路を改造し、ガンマ線用出力信号と、それに比べ大きさが約13倍小さい陽子用出力信号の2つを同時に得られるデュアルゲインシステムにアップグレードした。さらにガンマ線用の出力だけを約10倍増幅し、100倍のエネルギー差があっても陽子とガンマ線の同時測定を可能とする回路システムを構築した。 またノルウェーのオスロ大学と協力して、本研究の新手法を用いた未知の中性子捕獲反応断面積を測定する実験を、理化学研究所仁科センターに提案し、実験課題として採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度は新手法のための検出器開発は順調に進展したものの、重元素合成に重要な中性子過剰核の中性子捕獲反応率決定実験を行うためのビームタイムを獲得することはできなかったため、やや遅れていると判断する。
検出器開発に関しては当初の予定通り進んだ。既存のCsIシンチレータで構成されるガンマ線検出器の読み出しとして用いられている120個の光電子増倍管の回路を改造しデュアルゲイン化することにより、エネルギーが約100倍異なる陽子と脱励起ガンマ線の同時測定を可能とした。それに伴い測定システムもガンマ線測定部と陽子測定部に分離するように更新した。更新後の検出器のガンマ線測定部に関しては回路改造以前と同様の性能が得られていることを確認した。一方陽子測定部に関しては陽子の代わりに宇宙線を用いて、回路が正常に動作していることを確認した。 一方中性子過剰核の中性子捕獲反応率決定のためのビームタイムは獲得できなかった。本研究の新手法を用いて重元素合成に最も重要な領域を測定する実験を理化学研究所仁科加速器研究センターに提案した。実験提案はノルウェーのオスロ大学と協力して行った。その結果実験課題としては採択されたが、新手法自身の検証をまず中性子捕獲反応率が既知の核を用いて行い、その後未知の領域の研究を行うべきであると判断され、ビームタイムを得ることはできなかった。これをふまえて今後は本研究の新手法の検証のための実験を行った後、再び重元素合成にとって最も重要な領域の研究に挑む。
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今後の研究の推進方策 |
今後は昨年度に構築が終了した検出器システムの性能評価をまず行った後、中性子捕獲反応率が既知の中性子過剰核を用いた新手法検証実験を行うための実験提案を行い、本手法を用いた実験を遂行する。
昨年度構築した新検出器システムの性能評価は、ガンマ線測定部に関しては当初の予定通りの性能が達成できていることが確認できている。一方陽子測定部の性能評価は、加速器を利用しなければその評価が不可能なため、まだ行っていない。そこで今年度はまず陽子測定部の性能評価を、230MeVの陽子ビームとポリエチレン標的中の陽子の間の弾性散乱反応を用いて行う。この反応で発生する散乱陽子と脱励起ガンマ線のエネルギーは、本研究の新手法で中性子過剰核の中性子捕獲反応率の測定を行った場合に発生する陽子とガンマ線のものとほぼ一致するため、新検出器システムのテストに最適である。この性能評価実験を令和4年5月にQSTのHIMACで行い、データ解析の結果を学会で報告する。
本手法を用いた実験提案及び遂行に関しては、令和4年度中に中性子捕獲反応率が既知のカドミウム同位体を用いた、新手法を検証する実験を理化学研究所仁科センターに提案する。令和5年度には提案した実験を遂行し、そのデータ解析から新手法の検証を行う。その結果を用いて令和5年度中に中性子捕獲反応率が未知である、重元素合成の起源解明に重要な中性子過剰核の測定の再提案を行う。
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