中性子星合体で起こる元素合成の解明には中性子過剰な不安定原子核(中性子過剰核)の中性子捕獲反応率の実験的決定が欠かせない。しかしこの反応率を直接測定することは困難を極めるため、これまでほとんど決定されて来なかった。この反応率の不定性が重元素起源解明のボトルネックの1つとなっており、その実験的決定が急務である。本研究では中性子過剰核の中性子捕獲反応率を、陽子準弾性散乱反応という別の反応を用いて間接的に決定する新間接的手法を確立し、本来測定が困難な中性子捕獲反応率を高効率で決定することを目指す。
新手法を用いた中性子捕獲反応率決定では、本研究で構築した140個のCsIシンチレータ検出器で構成される新検出器システムと、陽子飛程検出器を組み合わて陽子とガンマ線それぞれの運動量を測定する必要がある。 今年度は本研究で完成させた新検出器システムを陽子飛程検出器のプロトタイプと組み合わせて、初めて中性子過剰核の陽子準弾性散乱反応の測定を行った。核子あたり約200MeVの中性子過剰核11Liと10Beを陽子標的に照射し、その反応で発生した高エネルギー散乱陽子とガンマ線を測定した。新検出器システムで既知の陽子のエネルギーピークを観測し、さらに既知励起状態に対応する脱励起ガンマ線も測定することができた。これは陽子とガンマ線の運動量の同時測定が実際に可能であることを示しており、新間接的手法の検証に不可欠な測定が本研究で新たに建設した新検出器システムで可能になることを証明するものである。新間接的手法の検証実験は陽子飛程検出器のフルセットアップが完成する2025年に行う予定である。
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