研究課題/領域番号 |
21H01115
|
研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
新山 雅之 京都産業大学, 理学部, 准教授 (90455361)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 原子核物理 |
研究実績の概要 |
我々の体重など物質の質量は99%が原子核の質量です。原子核を作る核子はクォークでできていますが、クォークの質量を足しても核子の質量は説明できず、核子の質量は強い相互作用が引き起こすクォーク凝縮によって生じていると考えられています。原子核中ではクォーク凝縮が変化し、クォークと反クォークでできた中間子の質量も変化すると予想されていますが、過去の実験データに不一致があるなど確証が得られていません。本研究では、先ずは過去の測定の問題点を解決する測定手法を確立することを目指しています。 これまでの研究ではρ中間子の質量が原子核 中での質量変化を報告した実験と変化がないとする実験が存在し、混沌とした状況にあります。質量変化がないとする実験ではρ中間子が原子核内で崩壊したのか、原子核外で崩壊したのかを区別していないことが問題点です。 ρ中間子が原子核中で生成され崩壊した ことを同定した上で、ρ中間子の不変質量分布を測定する事が重要です。この手法を確立するためには、中間子が生成された際に反跳される陽子を前方の高抵抗板検出器で検出し原子核内でρ中間子が生成されたことを確認すること、背景事象を可能な限り抑え、ρ中間子の崩壊で生じる電子・陽電子対の不変質量分布からρ中間子の質量変化を探ることが必要です。 2021年度は、兵庫県スプリングエイトのガンマ線ビームラインで稼働中のソレノイドスペクトロメーターでこの研究のための検出器開発を行いました。前方の高抵抗板検出器の増強と電子・陽電子識別用の電磁カロリメーターの読み出し回路の準備を行いました。検出器の較正を今後行ってゆきます。これによって、より広い範囲で反跳陽子を捉えることができるようになり、電子・陽電子の識別能力が向上します。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は兵庫県スプリングエイトの高輝度ガンマ線ビームライン(LEPS2)で行います。原子核標的に高エネルギーガンマ線を照射し、中間子を原子核中で生成し崩壊で生じる電子・陽電子対をLEPS2で運用が始まったソレノイドスペクトロメーターで測定します。ρ中間子の崩壊で生じる電子・陽電子対を同定するためには、電磁カロリメーターで電子(陽電子)のエネルギー測定を行い、運動量とエネルギーから速度と質量を求め荷電パイ中間子などと区別する必要があります。LEPS2ソレノイドスペクトロメーターでは鉛・プラスチックのサンドイッチ型電磁カロリメーターが稼働していますが、読み出し回路系の不足のため2層しか読み出せず、電子や陽電子の全エネルギーをカロリメータで測定するには放射長が足りません。そこで、本研究の初年度ではソレノイドスペク トロメーターの側面部に設置された電磁カロリメーターの読み出しシステムを増強しカロリメーターの放射長を電子・陽電子の識別能力を向上させるための開発を行いました。信号読み出しケーブルや電気回路を設置、調整し、カロリメーターとして動作する事を確認しました。世界的な半導体不足によりデーター収集用 VME-CPU の納期が遅れたため、ガンマ線ビームを用いた検出器の信号確認は2022年度はじめに行うことになりました。しかし、ビームによる信号確認は短期間で終了するため研究遂行の予定に対する影響は軽微なものであり、研究は概ね予定通りに進んでいると考えています。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度は2021年度に開発した電磁カロリメーターのガンマ線ビームを用いた信号確認を行います。カロリメーターの各セグメントについて荷電粒子のエネルギー損失の分布が一様になるように読み出し回路系の増倍率を調整します。その後、液体水素標的を用いて中性パイ中間子の生成を行い、中性パイ中間子の2つの光子への崩壊を測定することで、電磁シャワーのエネルギー測定の較正を行います。その後はデータ取得を続け、電磁カロリメーターによる電子や陽電子の全エネルギー測定とスペクトロメーターによる運動量測定との同時測定により電子・陽電子と荷電パイ中間子との識別能力の最適化を行います。 同じデータを用いて背景事象の影響を見積もり、原子核中でのρ中間子の質量測定の手法の確立を目指してデータ解析を進めてゆきます。手法が確立次第、原子核中でのρ中間子生成のデータを取得してゆきます。
|