研究課題
雷や雷雲の中で電子が電場により高エネルギーに加速され、10 MeVを超える制動放射線を発生させることがある。電場があるとはいえ地球大気中で 10 MeVを超える電子が作り出されるメカニズムは、まだ明確には理解されていない。その理由の一つに、放射線が発生する際の気象学的要因がこれまで十分に検証されていなかったことが挙げられる。2015年より金沢近郊にて雷や雷雲からの放射線の観測を続けてきており、2020年までに70例の雷雲からの放射線(ガンマ線グロー)を捉えて、カタログとして発表していた。カタログにあるガンマ線グローの検出時における地上及び500 hPa面の気象状況を検証したところ、500 hP面において気圧の谷であるトラフが形成されているとともに、西よりあるいは西南西よりの風が吹く状況が多いことが分かった。この結果は、気圧配置の状況とガンマ線グローの発生との間に関連があることを示唆している。また、雷雲とともに移動するガンマ線グローを追跡するため、北陸地方には50台以上の小型放射線検出器が配置され、観測を続けている。この連続観測のなかで、5台の放射線検出器が同じガンマ線グローを捉えた事象を解析した。その結果、捉えられたガンマ線グローが雷の発生に合わせて消失したことが分かり、ガンマ線グローを引き起こす雷雲中の電子が雷の発生に寄与している可能性を示した。高山でのガンマ線グローの時間特性を評価するため、チベット高山にて宇宙線観測に使われる装置で得られたデータを解析した。その結果、チベット高山のガンマ線グローは、夏の雨季の時期に観測されやすいこと、及び継続時間が10-40分ほどであることが分かった。この継続時間は、北陸地方の冬に観測されるガンマ線グローの継続時間が数分であることと比較すると、大きく異なり、ガンマ線グローの継続時間が高度や観測時期に依存することが分かった。
2: おおむね順調に進展している
2022年度、引き続き北陸地方での観測を実施した。従来の放射線の観測のみならず、雷が発生したこと、及び雷雲内の様相を知るために電波による観測との連携も進めており、放射線の観測では得られなかった新たな知見を取得できるようになった。また、本科研費の目的の一つに、ガンマ線グローによって光核反応が引き起こされるかどうかを検証することがある。このために、熱中性子、高速中性子、ガンマ線の弁別が可能な小型装置を開発した。開発した装置を用いた長期試験運転にて大きな問題は見られなかったため、2023年度には、この装置を用いた観測を予定している。北陸地方における観測データのみならず、高山での観測データも雷や雷雲に伴う放射線の発生メカニズムの解明には重要である。2022年度、チベット高山の宇宙線観測を目的とする装置で得られたデータを解析し、ガンマ線グローの時間特性に関する理解が深まった。利用した宇宙線観測装置と同種の装置が世界の多くの地点で稼働しており、同様な解析を実施することで、さまざまな地域におけるガンマ線グローの時間特性に関する情報が得られると期待できる。
2006年から雷や雷雲からの放射線観測を開始し、現在、柏崎や金沢など北陸地方のいくつかの拠点で観測を進めている。また、電波による観測との連携も進み、放射線の観測だけでは得られないデータとの比較により、雷や雷雲からの放射線の発生メカニズムの理解も深まった。今後も、この観測ネットワークの維持と拡充を実施していくとともに、ガンマ線のみならず、現在まであまり観測がされていない中性子や電子の測定も検討していく。日本海沿岸の観測に加えて、高山での観測も進めていく。国内外の高山にて、さまざな宇宙線観測装置が稼働している。そうした宇宙線観測装置が雷や雷雲からの放射線に感度があることが分かってきた。また、実際に世界のいくつかのグループでは、宇宙線観測装置を用いた雷や雷雲からの放射線に関する観測結果を報告している。そうしたグループとの連携を模索しつつ、北陸地方の観測用に開発した装置を高山に設置していく。高山への展開により、さまざまな地域及び時期での観測データが得られ、雷や雷雲からの放射線発生メカニズムの解明に資すると期待できる。
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Progress in Earth and Planetary Science
巻: 10 ページ: 1-21
10.1186/s40645-023-00538-2