研究課題
本研究は最新鋭の長波長電波望遠鏡によるシンクロトロン偏波・電波の観測によって、AGNジェットが銀河団ガスに対してどのように磁場・宇宙線・そしてエネルギーを供給しているのかを3年計画で究明するものである。特に衝突後期銀河団のAbell3376、衝突前期銀河団のCIZA1359、そしてクーリングフロー銀河団候補のPhoenixの、3つの特徴的な銀河団天体に焦点を当てて研究を推進する計画である。今年度は当初の計画通りAbell3376で1件の査読付き論文としてまとめ、Nature誌に掲載された。また関連する乱流磁場のファラデートモグラフィーの研究で1件の査読付き論文の成果を得た。Abell3376は、南アフリカのSKA先行機MeerKATを用いて観測した。特にNature誌掲載の1件では、ジェットが供給した宇宙線電子が加齢し再び再加速される様子と、ジェットと銀河団の磁場が強く相互作用することで磁場が折れ曲がる様子を克明に描き出すことに成功した。AGNジェットがこれほど強く銀河団磁場の影響を受けているということは新展開である。なおAbell3376のもう一件の論文(採録年で次年度に報告予定)でも、ジェットが電波レリックと接続している様を克明に明らかにすることができ、近年にLOFARやMeerKATで見えてきた銀河団内の淡い電波放射が豊かな銀河団磁場の構造を浮き彫りにし始めていることと合わせて、磁場の関わりが非常に重要であることを明確にした。現状の宇宙論的な構造形成・銀河団形成の数値実験では、AGNジェットの力学的・熱的な効果は近似的に取り入れられているが、このようなジェット(や宇宙線)と磁場の非熱的な相互作用を十分に考慮できておらず、さらなる研究が必要である。
2: おおむね順調に進展している
衝突後期銀河団Abell3376については、中心のAGNジェットの論文に加えて銀河団全体についての論文も出版に至ることができた。さらに追加のMeerKAT観測提案を至るまでに至った。これは当初予定以上の進展である。CIZA1359については、GMRTの観測データの取得、解析環境の準備、解析の実施、そして考察を実施し、さらにMeerKATの観測データまで取り込んで議論を深め、銀河団の連結領域にて淡く広がった電波放射候補を世界で初めて発見した。複数の活動銀河核との位置対応がみられたことから、ここでもジェットの宇宙線供給の重要さの示唆を得ることができた。現在、論文にまとめているところである。並行して、X線の解析結果は論文を投稿中である。研究はおおむね順調に進展している。クーリングフロー銀河団候補のPhoenixについては、EAVNの観測データの取得、解析環境の準備、解析の実施、そして考察を実施し、さらに追加の観測提案をJVNとMeerKATに申請した。活動銀河核の放射が銀河内の激しい星形成やブラックホールの急成長の割には、比較的弱いことが分かりつつある。研究はおおむね順調に進展している。これらの中核の研究に加えて、境界領域たるファラデートモグラフィーの研究や介在銀河の研究でも進展がみられ、それらは次年度に論文出版に至ると期待している。
Abell3376については当初の目標は達した。今後は東側レリックの詳細なスペクトル解析、および偏波の解析を進め、可能であれば論文化を目指す。MeerKAT観測提案が採択されたならば、そのデータの取得と解析も加える。またAbell3376の研究を通じて、屈折したジェットが銀河団とジェットとの相互作用を詳らかにできることを確信したので、MeerKATの銀河団レガシーサーベイから類似する屈折したジェットを選び出し、追加の解析あるいは新規の観測提案を進めていきたい。CIZA1359については、執筆中の論文を速やかに投稿し、X線の論文と合わせて2件の出版を目指す。これを当初の計画どおり来年度の中心的成果にしたい。合わせて、追加の観測が有意義がどうかの検討を行い、有効と判断する場合には観測提案を行う。PhoenixについてはJVNの観測データの解析を進める。EAVNの観測結果と組み合わせて、論文1件の草稿を目指す。MeerKAT観測提案が採択されたならば、そのデータの取得と解析も加える。これら以外にも、本研究をサポートする電波・偏波の理論研究も進める予定である。
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MNRAS
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10.1093/mnras/stac1086
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