研究課題
本研究は最新鋭の長波長電波望遠鏡によるシンクロトロン偏波・電波の観測によって、AGNジェットが銀河団ガスに対してどのように磁場・宇宙線・そしてエネルギーを供給しているのかを3年計画で究明するものである。特に衝突後期銀河団のAbell3376、衝突前期銀河団のCIZA1359、そしてクーリングフロー銀河団候補のPhoenixの、3つの特徴的な銀河団天体に焦点を当てて研究を推進する計画である。今年度は当初の計画通りCIZA1359で2件の査読付き論文としてまとめた。また関連するファラデートモグラフィーの研究で2件、FRB観測で1件、銀河団SZ効果観測で1件、そして低周波電波観測のRFI軽減技術開発で2件の査読付き論文の成果を得た。CIZA1359は、インドのSKA先行機GMRTを用いて観測した。先進的な電波解析手法である方向依存型自己較正を適用して、世界最高レベルのダイナミックレンジである38000を達成し、銀河団の連結領域に淡く広がった電波放射を初めて発見することに成功した。CIZA1359のもう一件の論文ではX線観測の解析に協力し、その電波放射がX線で衝撃波があると予想される位置にあることを明らかにした。しかし衝撃波のマッハ数は最大で1.7と弱く、標準的な衝撃波加速モデルに照らし合わせると、その場に種電子が存在していたことを示唆する。我々のGMRTの電波観測は、確かにAGNを広がった放射の中に見つけており、そのうちいくつかのホスト銀河は銀河団の赤方偏移と大差なかった。そのことから、これらのAGNが過去あるいは現在にジェットを放出し、そのジェットが宇宙線を供給したと解釈するのが妥当であることを突き止めた。一連の研究により、磁場の存在やAGNの種電子供給が、連結領域のような銀河団の外縁でもあることを確かにしたことは、重要な成果と考えている。
2: おおむね順調に進展している
Abell3376の研究から展開させて、MeerKATの銀河団レガシーサーベイから屈折したジェットを選び出し、CIZA1410とAbell3322について観測提案を行い、観測が実施された。GMRTとATCAのデータ、それにMeerKATのアーカイブデータを獲得した。どちらも現在解析を進めており、基本的な物理量を得つつある。来年度の早い段階で論文化に進められると期待しており、研究はおおむね順調に進展している。CIZA1359については、GMRTの観測データの取得、解析環境の準備、解析の実施、そして考察を実施し、さらにMeerKATの観測データまで取り込んで議論を深め、論文として出版するに至った。並行して、X線の解析結果も論文を出版できた。研究はおおむね順調に進展している。PhoenixについてはEAVNの観測データの取得、解析環境の準備、解析の実施、そして考察を実施し、さらに追加の観測提案をJVN/YIに申請し採択、観測された。観測結果を解析した結果、中心巨大ブラックホールは驚くほど暗く、銀河中心部の電波放射の大半は星形成領域あるいは若いジェットなどの広がった放射であることを世界で初めて突き止めた。論文投稿の準備中であり、研究はおおむね順調に進展している。これらの中核の研究に加えて、境界領域たるファラデートモグラフィーの研究や銀河群の研究でも進展がみられ、それらは次年度に論文出版に至ると期待している。
CIZA1410とAbell3322については、較正変数の精査や自己較正の導入によって結像の品質を向上させる。これを達成した上で物理的考察を行って、年度内に投稿・採択を目指したい。CIZA1359については、偏波の解析や追観測の方向性も考えられるが、CIZA1410とAbell3322の研究で進展が見られたことから、優先度を下げることを考えている。Phoenixについては論文1件の投稿と採録を確実に達成したい。MeerKAT観測提案が採択されたならば、そのデータの取得と解析も加える。これら以外にも、本研究をサポートする電波・偏波の理論的および観測的研究も進める予定である。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件) 学会発表 (14件) (うち国際学会 4件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
PASJ
巻: 75 ページ: S108-S122
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