研究課題
地球周辺の宇宙空間(ジオスペース)におけるプラズマのイオン組成は、そこで生起する数多くの電磁気現象の性質を支配するパラメターであるため、その変化原因や変化領域を明らかにすることが極めて重要である。そこで、この研究では、「低エネルギーO+イオンが、どのように電離層からジオスペースへ輸送され、どのように分布しているのか」について明らかにすることを目的とする。具体的には、「①低エネルギーO+イオンが電離層から磁力線に沿って輸送され、磁気赤道付近でピッチ角散乱を受けてジオスペースに滞留する、という経路の可否」、「②ジオスペースに輸送されたO+イオンは、従来考えられてきたようなトーラス形状のO+イオン高密度領域を形成するのか、それとも主に東向きにドリフトして三日月形の高密度領域を形成するのか」の2点を複数人工衛星データの解析と計算機シミュレーションによって検証する。2021年度は、特に①に注目し、あらせ衛星、Van Allen Probe A, B衛星の合計3機の粒子データを解析し、電離層からジオスペースへ流れ出してくるO+イオンの同時観測例について詳細な解析を行った。その結果、ジオスペースで観測される低エネルギーO+イオンは、磁場双極子化の数分後に現れること、数keVから約10 eVにわたってエネルギー分散を示すこと、磁気擾乱時・磁気静穏時のどちらにも現れること、磁力線と平行方向または反平行方向に動いていること、低エネルギーH+が付随することもあるが、その量はO+のほうが3-10倍も多いこと、などが明らかになった。このような低エネルギーO+イオンがピッチ角散乱を受ける効果について計算機シミュレーションを行い、ジオスペースの朝側領域で3-9時間程度滞留することも示した。
2: おおむね順調に進展している
人工衛星データの解析、およびその結果を解釈するための計算機シミュレーションを行い、2021年度には、国際学術誌であるJournal of Geophysical Researchに2編の主著論文を発表した。また、関連した研究内容について7編の共著論文を発表した。
2021年度は、あらせ衛星、Van Allen Probe A, B衛星の合計3機の粒子データを解析し、電離層からジオスペースへ流れ出してくるO+イオンの同時観測例について詳細な解析、および計算機シミュレーションを行った。2022年度は引き続き、研究課題①「O+イオンの電離層からジオスペースへの直接輸送」について研究を実施すると同時に、研究課題②「ジオスペースに輸送されたO+イオンは、主に東向きにドリフトして三日月形の高密度領域を形成するのか」を調査する。具体的には、次のような解析を行う予定である。【データ解析】 あらせ衛星の低エネルギーイオン計測器(LEPi)が計測したデータを解析し、O+イオン直接供給イベント(H+のフラックスは増大していないが、O+の数keV以下のフラックスは強い増大を示し、エネルギー分散が現れているイベント)を選び出してくる。イベントが観測されたL値、地方時、継続時間、エネルギー分散性、O+の上限・下限エネルギーなどを統計的に調査することで、イベントの性質の全体像を明らかにする。また、衛星が朝側および夕方側を飛翔している時間帯に着目し、低エネルギーO+イオンがプラズマ圏界面付近に長時間滞留しているのかどうかを調査する。昨年度までの計算機シミュレーションから、低エネルギーイオンは東向きにドリフトしていく傾向が見られた。こうしたことが実際に衛星データからも確認できるのかを検証する。【計算機シミュレーション】 磁場・電場モデルを用いて、計算機上にジオスペースの電磁気圏環境を再現する。これらの中で、低エネルギーO+イオンの軌道計算を行い、電離層から流出してきたO+イオンがジオスペース中でどのあたりに長時間滞留するかを調べ、衛星観測結果と比較する。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 6件、 査読あり 9件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件) 備考 (2件)
Journal of Geophysical Research
巻: 127 ページ: 1-19
10.1029/2021JA030008
巻: 127 ページ: -
10.1029/2021JA029786
10.1029/2021JA030064
Space Science Review
巻: 218 ページ: -
巻: 126 ページ: 1-20
10.1029/2021JA029168
巻: 126 ページ: -
10.1029/2019JA027664
10.1029/2020JA028790
10.1029/2020JA029073
10.1029/2021JA029677
https://doi.org/10.17593/13437-46800
https://www.isee.nagoya-u.ac.jp/~nose.masahito