研究課題/領域番号 |
21H01149
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
小池 みずほ 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 助教 (60836154)
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研究分担者 |
中田 亮一 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(高知コア研究所), 主任研究員 (50726958)
菅原 春菜 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 特任助教 (50735909)
臼井 寛裕 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 教授 (60636471)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 窒素の循環と進化 / 火星隕石 / 火星アナログ試料 / 窒素化学種 / 局所非破壊分析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、火星における窒素の循環メカニズムの解明と、その変遷プロセスの追跡である。太古の火星は現在に比べ湿潤・還元的であり、生命誕生前の地球同様に無生物的な窒素循環が卓越していた可能性がある。火星隕石などの岩石試料には、かつての表層水や土壌の地球化学情報が記録されていると期待される。本研究では、火星試料から太古の窒素の挙動を制約するために、様々な時代を反映する火星隕石を対象に、[1]どこに・どのような窒素化学種が存在するかを調べ、[2]その窒素同位体比を明らかにする。あわせて、[3]火星表層環境での窒素同位体分別を評価する。本年度研究において、上記[1]-[3]すべての研究計画の要となる、[0]クリーン環境下での試料準備法をまず確立した。独自の汚染低減プロトコルを作成・改良することで、火星隕石中のごく微量な窒素を検出可能にした。さらに、[1]窒素化学種分析について、本年度中に大型放射光施設SPring-8の軟X線ビームラインBL27SUでのビームタイムを頂き、5種類程度の火星隕石、および、形成環境が火星と類似していると思われる地球岩石試料(火星アナログ試料)の窒素を測定した。その結果、隕石試料ごとに窒素の化学種と濃度にばらつきが見られることが判明した。一方、火星アナログ試料では局所的にアンモニウムなどの還元的な窒素が濃集していることが明らかとなった。 形成年代が同一の火星隕石であっても、それぞれの母岩がおかれた環境(火星上での形成場や水質変成、衝撃変成などの諸条件)に応じて、異なる窒素リザバーを記録してきたものと予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度中に、クリーン環境下での試料準備法の確立、および、火星隕石試料での窒素化学種分析を達成し、一定の成果が得られた。さらに、当初の計画に加えて、火星アナログ試料(形成条件が火星に類似すると思われる地球上の炭酸塩岩)の分析も火星隕石と比較しながら進めることができた。一般に、隕石は母天体(火星)における産状が分からず、かつ、地球落下後には汚染や風化などの影響を受けている恐れがある。火星アナログ試料から得られる知見で隕石の断片的なデータを補うことにより、包括的に火星の窒素進化史を制約できると期待される。一方で、隕石中の窒素濃度は微量かつ非常にばらつきが大きく、正確な結果を得るためには十分な数・量の試料に対して再現性を検証する必要があることが判明した。これは当初計画よりも時間がかかる測定となり、次年度にさらに複数種類の試料に対して窒素化学種の分析と再現性検証を行う必要がある。 以上を踏まえて、総合的に現在の進捗状況はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、[1]窒素化学種分析の発展、および[2][3]の同位体分析に取り組む方針である。具体的には、2022年度には前年度と異なる火星隕石試料に対して窒素化学種を調べる。多数の隕石データを比較することで、火星上の異なる時代や場所における窒素の挙動を明らかにする。さらに、[2][3]の基本となる標準試料の選定を行う。火星試料に組成が近く均一な天然鉱物試料を対象に、その窒素濃度と同位体比をバルク分析で決定して、今後の同位体分析の標準試料とする方針である。同時に、火星隕石中で同位体分析に適した窒素濃集相を特定する。2023年度には前年度までに選定した複数の火星隕石および火星アナログ試料について同位体分析を行う計画である。一連の研究結果をまとめて、火星における窒素の挙動と進化を制約し、太古の火星表層環境を推定する。
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