東京スカイツリーに設置した雲粒スペクトロメータ、地上に設置した光学式ディスドロメータ、Xバンド偏波レーダ、Kaバンド雲レーダを用いて、2019年8月19~20日に東京付近に激しい雨をもたらした暖かい対流雲についてその特徴を記述するとともに、パーセルモデル・シミュレーションにより降水形成過程を議論した。その結果、レーダ反射因子と比偏波間位相差が下層ほど増加する一方、レーダ反射因子差は下層ほど減少する傾向があること、雨滴粒径分布の形状は弓型となること、雲底付近の雲粒数濃度が平均370 cm-3、最大値606 cm-3であったことが明らかになった.またパーセルモデル・シミュレーションの結果から、雲粒数濃度が1200 cm-3を超えると暖かい雨が起こりにくくなることが分かった。これらの結果を学術誌で発表した。 また2017年10月22日に関東地方で大雨をもたらした浅い線状降水系を、雲解像モデル、Kaバンドレーダ、Xバンドレーダを用いて調べた。降水強度は約78mm h-1に達したにもかかわらず、エコートップ高度は0℃レベル以下にとどまっており、暖かい雨が卓越していた。Kaバンドレーダでは、対流系の前面に下層雲デッキが広がり、それが対流系に流入していくことが観測された。下層雲から供給された雲水と、台風から供給された水蒸気が、雨滴の併合成長を通じて激しい降水に重要な役割を果たしたと考えられる。これらの結果を学術誌で発表した。 さらに気象庁非静力学モデル(JMA-NHM)の2モーメントスキームに、東京スカイツリーで観測された雲粒粒径分布の特徴を導入してシミュレーションを行った。JMA-NHMの既定値ではシミュレートされる雲粒粒径分布が狭すぎるが、観測に基づく雲粒粒径分布を与えることにより改善された。のみならず、雲から雨への変換率が高まり、降水量が増加した。
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