研究課題
本研究は、脈石鉱物に着目して鉱物学的・同位体地球化学的な解析を行って、鉱物が生成した際の温度・化学環境を詳細に特定し、堆積層内で進行する化学反応に注目した新しい鉱床形成モデルの構築を目指している。2022年度は、沖縄トラフ伊江山熱水域から得られた堆積物コアを対象試料として、堆積層内の温度・化学環境の鉛直分布を明らかにすることに注力した。まず堆積層から得られた粘土鉱物の酸素同位体比測定をニュージーランドGNSとの共同研究で進め、そこから推定した鉱物形成温度として49 mbsfにおける100℃から55 mbsfにおける220℃まで直線的かつ急激に温度が高くなる鉛直分布が得られた。この温度勾配は、重晶石の流体包有物の均質化温度の最高温度の鉛直分布と非常によく一致した。熱水変質鉱物である粘土鉱物と脈石鉱物である重晶石から独立に得られた温度情報が一致したことは、熱水成分が幅広く浸入したことで堆積層内の温度環境が一定期間にわたり(おそらく現在まで)高温に規制されたことを強く示唆している。この堆積物コアで53-65 mbsfに認められる鉱化体も、同じ熱水成分の浸入による鉱化作用で形成されたと結論づけることができる。年代研究においても、堆積層内における鉱化作用を支持する証拠が得られた。堆積物コアが得られた掘削地点の周囲の表層堆積物から浮遊性有孔虫を抽出して炭素14年代測定を行い1000年前後の年代が得られた。一方で、堆積層内の鉱化体から抽出された重晶石の年代測定によっては、放射非平衡法で30年程度、電子スピン共鳴法で数100年、といった堆積年代より若い鉱化年代が得られた。これらの成果の一部を5月の地球惑星科学連合年会(国内学会ポスター)および9月の地球化学会年会(国内学会口頭)にて発表した。また2021年度に国際学会で発表した内容が学会のProceedings として出版された。
2: おおむね順調に進展している
現在までの研究により、本研究の作業仮説である「堆積層内で進行する鉱化作用」を裏付けるための十分条件となる証拠として、堆積層内の温度勾配を見出すことができた。粘土鉱物の同位体比解析の結果から推定された温度勾配は、300℃近い高温から100℃を下回る低温まで直線性が良く、堆積層内へ高温の熱源となる熱水が浸入する過程で形成されたと考えないと説明が難しい。脈石鉱物である重晶石の流体包有物の均質化温度もこの温度勾配とよく一致しており、熱水の浸入による鉱化作用を支持する決定的な証拠と考えられる。現在の課題として、これまで並行して進めてきた同位体地球化学の解析から得られた同位体比の鉛直分布を、この温度勾配と整合的に説明的にできるモデルの検討を進めている。堆積層内の熱水浸入過程、さらに海水由来間隙水との混合による鉱化作用を説明する整合的なモデルの構築を目指している。一方、年代情報について、堆積年代と鉱化年代の比較から作業仮説を支持する結果が得られてはいるものの、重晶石の年代測定に適用する放射非平衡法と電子スピン共鳴法の2つの手法で得られる年代情報の一致はあまり良くない。熱水性鉱石へ年代測定法を適用するための手法の確立という視点からも、慎重に問題の検討を行うことが必要となっている。
本研究が主張する作業仮説の説得力を高めるためには、ケーススタディの対象を一例だけでなく異なる熱水域から採取された堆積物コアにも広げていくことが重要となる。時間的制約から同位体地球化学解析に的を絞って解析を行い、過去に取得したデータや既存の地質学的記載と合わせることで、鉱化体を胚胎する火山体の地質学的特徴と堆積層内への熱水浸入過程の対応について比較検討を進める。こうした議論を取りまとめて、本研究の目標である新しい鉱床成因モデルを提唱する投稿論文の準備を進める。重晶石の年代測定に関する信頼性の問題の検討についても、堆積物の影響がほとんどない伊豆小笠原弧の熱水域で採取された試料の解析との比較を中心に進めていき、地球化学的な年代測定法を熱水性鉱石に適用する際に生じうる問題点の解決に寄与する。
すべて 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うちオープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Proceedings of the 16th SGA Biennial Meeting, 28-31 March 2022
巻: 1 ページ: 153-155
https://www.gns.cri.nz/about-us/staff-search/kevin-faure/