研究課題/領域番号 |
21H01177
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
山本 伸次 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 准教授 (30467013)
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研究分担者 |
平田 岳史 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10251612)
伊藤 正一 京都大学, 理学研究科, 准教授 (60397023)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 初期地球 / 水の起源 / 砕屑性ジルコン / 水素同位体比 / アパタイト |
研究実績の概要 |
地球の水の起源を明らかにするため、初期地球における水素同位体比変動を解明することを目的とし、西オーストラリア・ジャックヒルズ堆積岩帯に存在する砕屑性ジルコン中に残存するアパタイトの水素同位体比分析を行った。また、比較のため、カナダ・アカスタ片麻岩(約38億年前), ラブラドル片麻岩(約39億年前), 丹沢トーナル岩(約500万年前)から分離した、ジルコン中アパタイトに対しても、同様の分析を行った。水素同位体分析の結果、ジャックヒルズ試料ではアパタイト包有物の水素同位体比としてδD=-37~-354‰の分析値を得た。またアカスタおよびラブラドル片麻岩試料からは、δD=-28~-274‰ の分析値を得た。さらに、ジルコンの微量元素組成からその晶出マグマを推定すると、島弧型のジルコン中アパタイトでは、δD=-117~-160‰, かマントル由来のジルコン中アパタイトでは、δD=-222±28‰, -354±23‰の値を得た。
本研究で測定した、丹沢のジルコン中アパタイトのδD=-69±21という値を用い、マグマとジルコン中アパタイトとの同位体分別を求めると、δD= -35±21‰が得られた。この値を用いて太古代の島弧型アパタイトから、海洋δD値を推定すると、δD= -71±22‰という値が得られた。マントル水のδD=-222±28, -354±23‰という値と海洋δD値の間に差がみられ、初期の水の起源としては、原始太陽系円盤ガスとコンドライトの影響が疑われる。地球表層水は、34~41億年前の間、おおよそδD= -71±22‰で一定であり、その後、現在のδD= 0‰へ上昇したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
西オーストラリア・ジャックヒルズ堆積岩帯に存在する砕屑性ジルコン中に残存するアパタイトの水素同位体比分析を行った結果、約34億年前のマントルの水素同位体比としてδD= -354±23‰という値を得たが、これは既往研究から報告されている南アフリカ・バーバートン緑色岩体のメルト包有物から得られた約34億年前の低い水素同位体比と矛盾せず、地球の水の起源物質として低い水素同位体比をもつ原始太陽系円盤ガスの取り込みの可能性が示唆される。しかし、今回得られたジルコンおよびその中のアパタイト包有物は最大で36億年前であり、より古い時代の水素同位体比の追跡には至っていない。今後は砕屑性ジルコンの分離・回収の数を増やすとともに、より古い(40億年以前)のアパタイト水素同位体比を求めるべく課題を継続させる。 一方で、ジルコンのU-Pb年代およびアパタイトの水素同位体比は直接的に地球のどのような環境で形成されたアパタイトであるのかを示してはくれない。ジルコンは一般的には珪長質(花こう岩質)マグマから多産するが初期地球環境において多く存在していたと推定される苦鉄質(玄武岩質)マグマからもジルコンは形成されるからである。このジルコンの起源を推定すべく、ジルコンの微量元素分析(Scなど)およびアパタイトの微量元素分析に取り組み、アパタイトの水素同位体比を求めつつその起源マグマを同時に求めることが次なる課題といえよう。
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今後の研究の推進方策 |
より古い時代の、具体的には40億年以前の、ジルコン中アパタイトの獲得・分析には至っていないため、これは次年度への継続課題としつつ、更にジルコンの分離・回収およびSIMSを用いた水素同位体比分析を進める。ジルコンおよびアパタイトの起源推定に関して、ジルコンの判別指標としてGrimes et al., (2015)ではSc/Ybが有用であり、これを用いることで珪長質マグマ(花こう岩的)であるか玄武岩(マントル的)であるかの判別が可能であるとされる。同時にアパタイトにおいても各種微量元素(希土類元素濃度、ストロンチウム濃度、イットリウム濃度)の分析により、マントル的か花こう岩的かのおおよその判別が可能である(Belosussova et al., 2002)。今後はアパタイト包有物の水素同位体比分析と並行しつつその起源を求めることで、初期地球における水素同位体比変動の実体解明に迫る予定である。またアパタイトの水素同位体比が真に初生的な水素同位体比を保持しているのかについて検討する必要がある。一般的に水素同位体比は高い拡散係数を持つために、二次的な変成作用あるいは鉱物中のクラックを通じて、二次的な同位体比へ書き換わる可能性があるためである。これを検討するため、ジャックヒルズ・ジルコンにおいてジルコンおよびアパタイトの結晶性評価・クラックの有無・二次鉱物の共存などを同時比較しアパタイト水素同位体比の保存性についても分析・検討を行う。
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