研究課題/領域番号 |
21H01184
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
清水 健二 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(高知コア研究所), 主任研究員 (30420491)
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研究分担者 |
羽生 毅 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(火山・地球内部研究センター), グループリーダー (50359197)
栗谷 豪 北海道大学, 理学研究院, 教授 (80397900)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 地球の水の起源 / 火山ガラス / メルト包有物 / 水素同位体比 |
研究実績の概要 |
地球の水は生命を育み、プレートテクトニクスが駆動されるなど地球特有の環境に欠かせない。本研究では、地球形成初期においてマントル中に保持されている水の水素同位体比を求め、「地球の水はどこから来たものか」という問いに対して制約する。本研究ではヘリウム3/4比が高い地球形成初期にトラップされたガス成分を含むとされるハワイ諸島及びアイスランドの火山岩から研究に最適な試料を選定し、ガラスやメルト包有物の揮発性成分量(水、二酸化炭素、フッ素、塩素、硫黄)や水素・硫黄同位体比を2次イオン質量分析計(SIMS)で分析する。得られたデータを解析し、始原マントルの含水量と水素同位体分析比を見積り、地球内部の水の起源と振る舞いに束縛条件を与えることを目的とする。 令和3年度はコロナ禍であったため予定していたアイスランド調査を令和4年度に延期し、調査旅費などの必要経費を繰越した。令和3年度は既設のフーリエ変換赤外分光計(FTIR)のアップグレードを行い、ガラスや鉱物試料中の微量の含水量分析を行えるように技術開発をした。また、すでに手元にあったハワイの火山岩試料からカンラン石を分離し、メルト包有物中の揮発性成分の分析を行った。令和4年8月には、延期していたアイスランド調査を実施した。アイスランド大学の研究者の協力により多くの試料を採集してきた。また、令和3年度の本研究に関わる研究業績として、6編の学術論文を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度はコロナ禍のためアイスランド調査を延期した。高知コア研究所既設のFTIRを岩石中の微量な含水量を精度良く分析するため、窒素パージできるようにパージケースとオートステージを増設した。測定した結果、ベースラインが安定し、定量限界がこれまでの1/3程度になり、分析精度も向上した。アップグレードしたFTIRで様々な化学組成の火山ガラスや鉱物の含水量を測った。また、ハワイの火山岩試料からかんらん石を分離して、メルト包有物を探して、その揮発性元素と水素同位体比をSIMSで分析し、データをまとめた。これまでヘリウム3/4比の高い深海底の火山ガラスでは海水が混染している影響が顕著で除外せざるを得なかったが、その試料中のかんらん石のメルト包有物は海水混染の影響がほぼないことが明らかになり、よりオリジナルで深部マントルの情報を保持する試料から地球の水の起源を評価できるようになった。 令和4年度の夏にアイスランド調査を実施でき、アイスランド大学の共同研究者とともに研究に適した火山岩試料を多く採取できた。特にアイスランドでの火山や流体に関してヘリウム3/4比の分布地図を参考にしてヘリウム3/4比の高い地域のスコリア質の火山岩を採取できた。また、レイキャビク付近に氷床下噴火で形成したテーブルトップ状の火山があり、陸上に噴火したにもかかわらず水圧(氷圧)によって脱ガスを逃れ急冷したピクライト質な火山ガラスを採取した。この場所で採取された火山岩は先行研究で、地球形成初期にトラップされた希ガス成分が発見されているので、非常に重要な研究対象となる。 上記のようにコロナ禍で調査の延期などがあったが、2年間の研究の進捗状況はおおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
研究に最適なカンラン石斑晶を含む20試料を選定したので、海洋研究開発機構(JAMSTEC)横須賀本部既設のSELFRAGを用いて研究代表者と羽生が粉砕し、鉱物(カンラン石)や火山ガラス片を顕微鏡下で研究代表者と実験補助者が分離する。分離した鉱物と火山ガラス片のヘリウム同位体比をJAMSTEC横須賀本部既設の希ガス同位体質量分析計(MM5400)で羽生と研究代表者が分析し、ヘリウム3/4比の高い試料を選定する。選定した火山ガラスや分離した鉱物のメルト包有物の局所分析するための前処理を研究代表者と栗谷と実験補助者が行う。揮発性成分濃度と水素・硫黄同位体分析の分析をJAMSTEC高知コア研究所既設のSIMS(IMS-1280HR)で研究代表者と栗谷と研究協力者の牛久保が行う。その後、主要・微量元素濃度の分析をそれぞれ高知コア研究所のEPMA(電子線マイクロ分析計)と横須賀本部のLA-ICP-MS(レーザーアブレーションICP質量分析計)で、研究代表者と羽生で行い、データセットを揃える。 ハワイの火山岩試料のデータを含む揃えた全てのデータを用いて解析し初生的な情報を抜き出す。まず、研究代表者らが見出した水とフッ素の関係を用いて、測定したメルト包有物と火山ガラスが、上部-深部マントルトレンド付近にプロットされるか検証する。トレンドより水に枯渇する方にプロットされるものは、脱ガスの影響があるもの、もしくはリサイクル物質の関与があるものであることが推察でき、トレンドより水に富む方にプロットされるものは、海水や天水の混染、沈み込み物質の関与が疑われる。さらに塩素濃度や硫黄同位体比を加えると2次的な変質の影響など明確に区別できるようになる。始原マントルの含水量と水素同位体比を見積もり、研究代表者らが研究成果をまとめる。
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