今年度は、プレート沈み込み帯の断層におけるガスを含めた流体の移行・貯留プロセスを理解するため、ガス吸着法を用いて断層岩中に存在する微小間隙の構造評価を行った。まず地下深度500mより浅い領域で形成された断層について検討したところ、周囲の未変形岩石に比べて細孔径は低い値を示すが、10nm径以下のナノポア容積や比表面積(単位質量当たりの表面積)は増加していることが分かった。XRD分析やX線CT画像解析の結果と合わせて考察すると、このような細孔の変化は、断層岩中の粘土鉱物の剥離・変形によって生じたと解釈できる。プレート沈み込み帯の浅い環境では、断層活動時に、相対的に強度の小さな粘土粒子が選択的に破砕されることでエネルギー散逸が抑制され、その結果断層すべりが促進される可能性を示唆している。 一方、地下10km程度に相当する深部断層(九州四万十帯の延岡断層)について検討したところ、周囲の岩石に比べて2-50nm径のメソポア容積の減少がみられたものの、比表面積には明瞭な変化は見られなかった。先行研究を踏まえると、これはイライト粘土鉱物の破壊に伴う細粒化が起こり、そのような破砕粒子によってメソポアが充填された結果と考えられる。また、メソポアにおいて流体を介した鉱物沈殿が進行した可能性もある。こうした細孔の閉鎖は、透水性の低下をもたらし、地震発生時の高速変形に伴う動的断層弱化過程(熱圧化)に寄与したと考えられる。
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