研究課題/領域番号 |
21H01193
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
中村 佳博 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (60803905)
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研究分担者 |
原 英俊 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究グループ長 (60357811)
志村 侑亮 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究員 (20952071)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 深紫外レーザー / 顕微ラマン分光法 / 炭質物 / テクトニクス / グラファイト / 変成作用 / 地質温度計 |
研究実績の概要 |
申請者は,DUV(深紫外)レーザーを利用した新しい顕微/マクロラマン分光装置を開発することで,サンプルを一切加工せずに岩石が経験した変成履歴を推定できる新手法を提唱する.DUVレーザーは,我々が目にすることができる可視光(350-700 nm)より波長が非常に短いため,鉱物・樹脂から発生する妨害ピークの影響を一切受けずに微弱なラマン散乱光を迅速かつ簡便に測定できる.この特性を生かして従来不可能だった炭質物を含む天然岩石から短時間で被熱温度推定可能な新装置開発と新手法の提唱を目指す. 初年度から次年度にかけて我々は新しい深紫外顕微ラマン分光システムの構築を実施した.すでに設置されている可視光用ラマン分光装置を改造し,次年度に新しい顕微ラマン分光ユニットを追加した.分光器とCCD検出器は,深紫外から近赤外までの波長領域で高い回折効率を達成できるものを選定し追加した.回折格子も深紫外から近赤外まで幅広く検出感度を有しており,それぞれの波長で最適なブレーズ波長を有するものを選定した.そして全国各地の変成帯から標準炭質物試料を採取しラマンスペクトルの比較を行った.先行研究で報告されているように,深紫外領域の天然炭質物ラマンスペクトルは,可視光と大きく異なりDバンドが著しく小さい特徴がある.そのため従来のD及びGバンドの面積比を温度指標として利用するには,限界がある.そこで様々なスペクトル指標と変成温度の比較を行い,Gバンドラマンシフトと半値幅が低温から高温領域まで有効な温度指標として利用できることを発見した.現在新しい指標の分析条件の変動を議論しており,このデータを取得でき次第新しい温度指標として論文投稿を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,新たに深紫外顕微ラマン分光専用の顕微鏡をセットアップし,光ファイバーを分光器で交換するだけで,可視光~深紫外光までの顕微ラマン分光分析が実施できる新しいシステムを構築した.このシステムを構築することで,多波長領域(深紫外から近赤外)における有機物のラマンスペクトル変化を容易に測定できるようになり,波長依存性を一台のシステムで議論できるようになった.更に深紫外領域に最適化した光学部品を選定し,従来のシステムより短時間かつ高感度な顕微分光分析ができるように改造することができた.この新しい装置開発に関する研究成果は,すでに国際誌に報告済みである.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は,深紫外顕微ラマン分光法で取得したデータを利用して新しい地質温度計を構築する.すでに我々は,変成温度を測定済みの岩石チップから高感度なラマンスペクトルを取得している.炭質物のラマンスペクトルは50℃~650℃にかけて系統的にG band の半値幅とラマンシフトが変化する.G及びDバンドのラマンシフトは最も有効な温度指標であるが,約400℃付近で変化が収束するため高温領域では,半値幅を併用する必要があることが明らかになった.ただし半値幅は分光器側のスリット幅に依存して変化してしまう.現在新しい光ファイバーを購入し100μmから300μmにかけてどのように半値幅が変動するのか検討を行っている.この検討データも加えることでより高精度な温度推定法を確立を目指す. 一方で炭質物量が少ない低熟成な褐色泥岩では,炭質物のラマンスペクトルよりも蛍光スペクトルが顕著に出現することが明らかになった.昨年度広範囲な波長領域を測定できる回折格子(500 l/mm, 770nm blaze)を新たに購入し,この蛍光スペクトルの波長中心の探索と帰属に関して検討を行っている.これらの検討を加味し,今年度中に最終的な論文投稿を目指して研究を完成させる.
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