研究課題/領域番号 |
21H01204
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
吉村 寿紘 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(生物地球化学センター), 副主任研究員 (90710070)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 風化 / 氷河 / 堆積物 |
研究実績の概要 |
本研究は氷河性の侵食・風化作用を被った堆積物試料に含まれる陸源物質の化学分析から,気候変動と氷床形成に対するケイ酸塩鉱物の風化強度の時系列変化を捉え,気候の寒冷・温暖サイクルと岩石分解反応の効率の関係性を解明することを目的としている。氷河が形成され,新鮮な岩石が削剥されることで非常に細粒な砕屑物が生産される。細粒鉱物は非常に高い反応性をもち溶解が迅速に進行する。ケイ酸塩岩の化学風化によって生産された溶質が海洋に運搬され,海洋生物の石灰化反応によって炭素が海底に固定されることで効率的な二酸化炭素の除去に寄与することが予想される。堆積物試料は炭酸塩,ケイ酸塩,マンガン酸化物など多様な成分の混合物であるため,これらを化学試薬によって段階的に抽出する必要がある。今年度の成果として,ニュージーランド沖の海洋堆積物から,交換性イオン・炭酸カルシウム・ドロマイト・ケイ酸塩の4つの異なる化学画分を合計240試料抽出し,それぞれの金属濃度から古海洋環境や鉱物の風化強度の情報を抽出した。本試料は過去100万年間の風化強度の履歴を記録しており,およそ20万年以降により新鮮な物質が堆積(風化強度が低い)しているため,岩石の溶解反応がより効率的に進んでいたことがわかった。化学風化の気候変動への応答は数万年スケールで進行する氷期-間氷期変動よりも長期的な変動を示しており,数十万年の時間スケールで効率的な地球表層の炭素消費に寄与したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地質時代の気候変動に伴って氷床量の大きな増減が見いだされている南極とニュージーランドの周辺海域から採取された海底堆積物を対象に化学処理を行い,風化度の判定に用いるケイ酸塩鉱物を抽出し,主要元素濃度を測定することで化学風化度の経年変動データを得た。また,抽出液に含まれるリチウムを単離生成し,安定同位体比測定を行うための前処理を継続して行っている。所属機関における新型コロナ感染拡大防止対策により出勤時間に制限があったため若干の遅れが生じたものの,一部試料では金属濃度とリチウム安定同位体比のデータを得ており,順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
氷床量の急激な増減が見いだされているニュージーランド沖の海底堆積物を対象に,約2万年間隔で段階リーチングを行い,風化度の判定に用いるケイ酸塩鉱物を抽出を完了した。本試料のリチウムを抽出精製し安定同位体比を測定することで,ケイ酸塩鉱物の溶解と化学風化の強度比の定量化に取り組む。また南極海の堆積物試料に含まれるケイ酸塩鉱物の分離にも取り組んでおり,気候変動と氷床形成に対するケイ酸塩風化強度の時系列復元に取り組んでいる。合わせて,可溶性のケイ素の定量を行う手法を開発に取り組む。ケイ酸は海洋プランクトンの制限元素のひとつであるため,氷期-間氷期変動を通じた海洋への物質供給量の変化評価する。
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