研究課題/領域番号 |
21H01206
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
阪口 基己 東京工業大学, 工学院, 准教授 (60452083)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 液滴 / 流動 / 凝固 / 皮膜 / 変形 / 破壊 / 溶射 / 残留応力 |
研究実績の概要 |
溶射は,溶融させた材料粒子を基材表面に吹き付けて衝突,急速冷却,凝固,堆積させるコーティング手法である.成膜された皮膜には割れや剥離といった損傷が基本問題としてつきまとい,この損傷は溶射時に発達する残留応力に大きく左右される.ただ,溶融した単一粒子が基材に衝突して急冷凝固する過程は時間と寸法のスケールが小さく,その過程で発達する残留応力を実測した例はない.本研究では,溶射プロセスをモデル化した溶融パラフィンの滴下実験により,基材に衝突した液滴の流動・凝固・密着過程での残留応力の発達挙動を可視化するとともに,凝固した皮膜の割れや剥離といった破壊現象に滴下条件が与える影響を解明することを目的とした. 今年度は,まず,これまでの試作装置を基に,新しい滴下装置を作製した.この装置では,マイクロメータを改良したバルブによって吐出口を開閉して滴下量を制御し,滴下高さを変えることで基材への衝突速度を制御できるようにした.基材は循環冷却機能を持つ恒温槽の中に設置することで予熱温度を制御できるようにした. 滴下実験装置の製作と並行して,5種類のパラフィンの物性を測定した.融点や熱伝導率,比熱,潜熱などの熱物性,動粘性係数や表面張力係数,接触角などの流体物性を測定した.また,パラフィン試験片に対して,試験温度を変化させた引張試験とクリープ試験を行い,それぞれの温度での応力ひずみ曲線,クリープ曲線,引張強度を取得した. つぎに,作製した滴下装置を用い,6つの実験変数を個別に変化させた滴下実験を行った.液滴のリコイル挙動や凝固速度,凝固後の形状など,流動・凝固の素過程に実験変数が与える影響を明らかにするとともに,基材裏面に発生するひずみの時間変化を計測した.滴下実験では,液滴が凝固する過程でのパラフィン皮膜の割れや剥離挙動を観察し,これらの破壊現象に与える6つの実験変数の影響を評価した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
パラフィン皮膜の強度試験や物性測定に関して一部計画通りに進まなかった部分もあったが,研究計画全体はおおむね順調に進展しており,想定していた研究成果がある程度得られている.
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今後の研究の推進方策 |
今年度作製した滴下実験装置を使い,6つの実験変数を個別に変化させた滴下実験を継続して行う.液滴のリコイル挙動や凝固速度,凝固後の形状など,流動・凝固の素過程に実験変数が与える影響を明らかにするとともに,基材裏面に発生するひずみの時間変化を計測する. 滴下実験では,液滴が凝固する過程でのパラフィン皮膜の割れや剥離挙動を観察し,これらの破壊現象に与える6つの実験変数の影響を評価する.また,割れや剥離が生じない条件を対象にして,剥離試験とスクラッチ試験により皮膜基材界面での密着強度を測定し,界面の剥離強度に与える残留応力の影響を明らかにする. 滴下実験と並行して,測定したパラフィンの物性値を基にした数値解析を行い,液滴が基材に衝突→流動→凝固するプロセスを再現する.研究計画当初は粒子法(SPH)による流体シミュレーションを想定していたが,今年度の予備検討の結果を踏まえてVOF法に変更することにした.また,流体シミュレーションと並行して凝固後の皮膜形状を再現した有限要素モデルによる熱構造連成解析を行う.実験で測定した温度やひずみと照合しながら,皮膜中の残留応力の発達挙動を計算し,パラフィンの融点や線膨張係数,凝固直後のクリープ変形の影響を定量化する.
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