研究課題/領域番号 |
21H01207
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
秋庭 義明 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (00212431)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | X線 / 回折法 / 高分子 / 非破壊 / 引張変形 |
研究実績の概要 |
非晶性高分子材料であるポリカーボネートを取り上げ,回折プロファイルに及ぼす塑性変形の影響について検討した.また,結晶性材料への展開を図るため,その基礎データとして弾性状態でのX線的弾性定数について検討した.主な実績は下記のようになる. 1)ドックボーン型の引張試験片を機械加工によって切出し,エメリー紙研磨後に130℃で焼きなまし処理を施した試料を用意するとともに,新規に購入した島津製作所製の精密万能試験機AGS-Xを用いて単調引張試験を実施し,ある程度の領域に局所化されたネッキングを伴う塑性変形を導入することに成功した.2)試料表面には,あらかじめマイクロビッカース圧痕を等間隔で導入し,塑性変形後の圧痕の間隔と比較することから,ネッキング部近傍の公称塑性ひずみを算出した.ネッキング中央部の2mm間の公称塑性ひずみとして0.63が得られた.3)ネッキング部の高ひずみ領域を対象にする場合は,ある程度の空間分解能が要求されるが,直径1mmのコリメータでは充分な回折強度が得られず,2mmの照射面積が必要であった.なお,X線発生条件としての電流,電圧および測定時間の最適値を決定した.4)一般的な金属材料と同様にポリカーボネートにおいても引張塑性変形によって回折線幅が広がり,X線的弾性定数は塑性変形によって大きな変化は認められなかった.さらに,この結果を片側切り欠き材に適用し,切欠き底のひずみ分布を試みた結果,画像相関法による結果とよく一致することを示した.5)結晶性高分子材料について同様に検討するための基礎データを得ることを目的としてPE,PEEKおよびPPを対象として,弾性状態での応力評価に適する回折面を,X線的弾性定数の観点から明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非晶質のポリカーボネートについては,塑性変形の程度を半価幅から評価可能なことが明らかになった.特に引張変形方向に関しては半価幅が増加し,それと垂直方向については,逆に減少することがわかり,簡便評価可能な半価幅が,塑性変形量を評価するために極めて有効なパラメータであり,複雑な手順を用いてプロファイル解析するに及ばない.さらに,この手法を片側切り欠き材に適用して,切欠き底のひずみを評価し,画像相関法による解析結果と一致することを示し,比較的複雑形状の機械構造物に適用可能であることを確認することができた.また,損傷評価のもう一つの目的である残留応力評価に関しては,塑性変形が生じてもX線的弾性定数がほぼ変化しないことを明らかにすることができ,塑性変形量に関わりなく応力評価が可能となった.一方,結晶性高分子材料についても,応力評価に有効な回折面を明らかにするとともに,X線的弾性定数を明らかにし,塑性変形材評価のための基礎データを得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
1) ポリエチレン(PE)を対象として,荷重軸方向およびそれ以外の方向の応力測定を目的としてX線的弾性定数を明らかにする.特に,引張塑性変形によって,分子配向が変化するため,回線線強度や回折線幅など,回折プロファイル変化の観点から検討する.比較的幅広の試料に対して,単軸引張塑性変形を導入して,それより,塑性変形導入方向に対して角度を持たせて試料を取り出すことを検討する.試料方位に対して,応力測定時の試料表面とのなす角度に注目して,分子配向度合いと上述の回折プロファイルより得られるX線パラメータの変化に着目し,これらとX線的弾性定数の関係を明らかにする. 2) 結晶性高分子材料であるPEに加えて,ポリアセタール(POM)を対象として汎用性の拡大を試みる.POMの測定可能性については,既に試実験が修了しており,X線の侵入深さが浅いCr特性X線を用いる.3つの回折面,100,105および022を対象として塑性領域を含めてX線応力測定とともに,回折線幅に注目して損傷評価法を検討する.応力レベルは,前年度に検討したポリエーテルエーテルケトン(PEEK)に比較して弾性限界が低いため,X線的弾性定数の決定に際しては十分注意する.なお,POMにおいては,塑性変形の進行とともに白化現象が生じることが知られているため,その透明度の変化にも注目する. 3)高分子材料の成形後もしくは機械加工後には,残留応力除去を目的として,焼きなましが実施される.試料に導入された塑性変形の影響について,焼きなまし前後でのプロファイルを明らかにすることは,その後の損傷評価をするうえで極めて重要である.そこで,塑性変形によって変化した回折プロファイルに着目し,塑性変形後に焼きなましを実施することによって,回折プロファイルがどのように変化するかを明らかにする.対象試料には,PEもしくはPOMを用いることとする.
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