本研究の目的は、心筋における化学エネルギーから機械エネルギーへのマルチスケールなエネルギー変換機構の工学利用を目指し、その機構に関する基礎的知見を得るための実験モデルとして、iPS細胞由来心筋細胞を用いた自己収縮する原始心臓型ポンプを開発し、さらに数理モデルおよびシミュレーションモデルを確立することである。令和5年度は、この研究目的の実現へ向けた研究として、電気刺激によるiPS細胞由来心筋シートの拍動挙動の制御、3次元バイオプリンターを用いた自己拍動するポンプ用の足場構造体の開発を行った。得られた主な研究成果は以下の通りである。 (1)iPS心筋シートを作製後、周波数を変えたパルス状電気刺激を与えることで、刺激に対応した拍動が得らえることを確認した。このことから、心臓型ポンプの拍動挙動を電気刺激を用いることで制御できる可能性があることが見いだされた。 (2)周波数を変えた電気刺激は、心筋シートの応力-ひずみ応答特性にも影響を及ぼすことが明らかになった。 (3)光造形方式の3次元バイオプリンターと生体適合性ポリマーゲルを用いて、3種類の異なる足場構造体の作製に成功した。そのうちのひとつは、心臓の原始形態を模擬したものであり、心筋シートと組み合わせることで、心臓型ポンプの開発の可能性を示唆する結果が得られた。 (4)ポリマー構造体に心筋シートを貼りつけたハイブリッド構造体を作製し、心筋シートの自己拍動挙動を確認することができた。
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