研究課題/領域番号 |
21H01235
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
久保 百司 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (90241538)
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研究分担者 |
足立 幸志 東北大学, 工学研究科, 教授 (10222621)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | トライボ化学反応 / 分子動力学シミュレータ / 超低摩耗 / 超低摩擦 / 反応力場 |
研究実績の概要 |
省エネルギー対策に対する強い要請から、自動車を始めとする機械産業において、超低摩擦・超低摩耗技術の実現が急務の課題となっている。そこで本研究では、化学反応を解明可能な反応分子動力学法を発展させ、1億原子系でトライボ化学反応を解明可能なシミュレータを開発し、「化学反応」と「機械的摩擦」が複雑に絡みあった摩耗現象の解明を可能とすることで、超低摩耗を実現するためのトライボ化学反応の制御基盤と学理を構築することを目的とした。 本年度は、昨年度に開発した数百万原子系でトライボ化学反応を解明可能な並列化反応分子動力学シミュレータの高速化を実現し、1億原子系でトライボ化学反応を解明可能なトライボ化学反応シミュレータを開発した。さらに当初の予定にはなかったが、近年、第一原理分子動力学法に匹敵する高精度計算を実現しながら、第一原理分子動力学法では不可能な数万原子系の化学反応ダイナミクスを扱えるとして注目されているニューラルネットワークポテンシャル(NNP)に基づく分子動力学シミュレータをも開発した。また開発したNNPに基づく分子動力学シミュレータを活用し、シリコンナイトライドの水潤滑プロセスについて検討を行い、水とシリコンナイトライドがトライボ化学反応を起こすことで、アンモニア分子とコロイダルシリカを生成する摩耗現象を明らかにした。この結果は、研究分担者の実験結果と合致している。 実験研究としては、当初の予定通り、水潤滑における超低摩擦現象と超低摩耗現象の研究を実施した。DLCのプラズマ支援化学気相蒸着とSiCのスパッタリングによる物理気相蒸着の同時成膜により形成したSiC-DLC膜が、ステンレス鋼SUS304を相手材として、水潤滑において摩擦係数0.05以下の低摩擦を実現することを明らかにした。その時、SUS304表面にはSiとCによる親水性に富む潤滑膜が自己形成されることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、当初の予定通り、昨年度に開発した数百万原子系でトライボ化学反応を解明可能な並列化反応分子動力学シミュレータの高速化を実現し、1億原子系でトライボ化学反応を解明可能なトライボ化学反応シミュレータを開発することに成功した。さらに、当初の予定には全くなかった、近年、第一原理分子動力学法に匹敵する高精度計算を実現しながら、第一原理分子動力学法では不可能な数万原子系の化学反応ダイナミクスを扱えるとして注目されているニューラルネットワークポテンシャル(NNP)に基づく分子動力学シミュレータをも開発することに成功した。さらに、開発したNNPに基づく分子動力学シミュレータを活用することで、シリコンナイトライドの水潤滑プロセスについて検討を行い、水とシリコンナイトライドがトライボ化学反応を起こすことで、アンモニア分子とコロイダルシリカを生成する摩耗現象を明らかにした。また、ここで生成したコロイダルシリカは、シリコンナイトライド基板上に堆積することで、超低摩擦を実現するための潤滑膜を形成することも明らかにした。このように、当初の予定通り、水潤滑における「摩耗現象」におけるトライボ化学反応の解明と、水潤滑における「超低摩擦・超低摩耗を生み出す潤滑膜の形成過程」の解明を実現した。さらに当初の予定に加えて、新たにNNPポテンシャルに基づくトライボ化学反応シミュレータの開発と応用を実現したことから、(1)当初の計画以上に研究が進捗していると判断する。 また、実験研究においても、開発したSiC-DLC膜がステンレス鋼SUS304を相手材として、水潤滑において摩擦係数0.05以下の低摩擦を実現することを明らかにするとともに、SiとCによる親水性に富む潤滑膜が自己形成されることが低摩擦の理由であることも明らかにできたことから、(1)当初の計画以上に研究が進捗していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、下記の計画に基づき研究を遂行する。 (1)油潤滑の「摩耗現象」におけるトライボ化学反応の解明:油潤滑においてMo-DTCなどの摩擦低減剤、Zn-DTPなどの摩耗防止剤がトライボ化学反応を起こすことで、トライボ潤滑膜が形成されることが知られている。そこで、本研究で開発したトライボ化学反応シミュレータを活用することで、添加剤によって形成されたトライボ潤滑膜の摩耗現象を明らかにする。具体的には、「化学反応と摩耗」、「機械的摩擦と摩耗」の因果関係を明らかにすることで、超低摩耗を実現する条件、材料を理論的に設計する。 (2)油潤滑における「超低摩擦・超低摩耗を生み出す潤滑膜の形成過程」の解明:Mo-DTCなどの摩擦低減剤、Zn-DTPなどの摩耗防止剤によって形成された潤滑膜は、摩擦過程において「生成と摩耗」を繰り返すことで、一定厚みの潤滑膜を維持している。しかし、「生成速度と摩耗速度」のバランスがくずれると、トライボ潤滑膜が消失し、高摩擦状態への移行、さらには故障や事故を引き起こす。そこで、開発したトライボ化学反応シミュレータを活用し、トライボ潤滑膜の摩耗と生成の繰り返し過程を明らかにする。 (3)実験研究による油潤滑における「超低摩擦現象と超低摩耗現象」の検証:理論的に解明された摩擦低減剤や摩耗防止剤により形成されたトライボ潤滑膜の生成・摩耗の繰り返し過程について実験的検証、シミュレーション結果との比較・検討を行い、理論にフィードバックする。 (4)「超低摩擦現象と超低摩耗現象」の理論基盤の構築:固体潤滑、水潤滑、油潤滑の3つの系で得られた「化学反応と摩耗、機械的摩擦と摩耗」の因果関係、「化学反応と潤滑膜形成、機械的摩擦と潤滑膜形成」の因果関係、「潤滑膜形成と超低摩擦・超低摩耗」の因果関係を総括することで、「超低摩擦と超低摩耗」の理論基盤を構築する。
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