省エネルギー対策に対する強い要請から、自動車を始めとする機械産業において、超低摩擦・超低摩耗技術の実現が急務の課題となっている。そこで本研究では、化学反応を解明可能な反応分子動力学法を発展させ、1億原子系でトライボ化学反応を解明可能なシミュレータを開発し、「化学反応」と「機械的摩擦」が複雑に絡みあった摩耗現象の解明を可能とすることで、超低摩耗を実現するためのトライボ化学反応の制御基盤と学理を構築することを目的とした。 本年度、水潤滑プロセスに関しては、昨年度に開発した1億原子系でトライボ化学反応を解明可能なトライボ化学反応シミュレータを活用し、水環境下でのSiCのトライボ化学反応プロセスについて検討を行った。具体的には、1億原子の大規模計算が可能となったことで、粒界を含む現実的なSiCモデルでのシミュレーションを実現した。その結果、水とSiCがトライボ化学反応を起こすことで、コロイダルシリカなどの潤滑膜を形成することを明らかにした。またSiC中のSiに比較して、Cの方が水との化学反応性が低いことを明らかにした。さらに、粒界滑りが起こりSiCが変形を起こすこと、粒界滑りにより摩擦開始時から水との化学反応が起こるまでに猶予期間が存在すること、さらには粒界部分の摩耗が激しくなることなど、大規模計算によってしか解明できない現象を明らかにすることができた。 本年度、油潤滑プロセスに関しては、実験を中心に研究を進めた。高炭素クロム軸受鋼同士の冷凍機油中摩擦システムにおいて、添加剤としてナノダイヤモンドを導入することにより、摩耗の抑制が可能であることを実証した。特に一定値以上の鏡面化を施さない実機相当の粗さを有する初期表面を有する場合、30%以上の摩耗抑制が可能であることを実験的に明らかにした。さらに、ナノダイヤモンドの添加により、摩擦の安定性に改善がみられることを明らかにした。
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