固体の接触面に作用する摩擦力には、静摩擦と動摩擦と呼ばれる二種類が存在すると言われている。しかし、対向面に固着して相対的に静止しているように見える物体の相対速度を精密に計測すると、実は極低速で運動(=低速クリープ)しているとの報告が複数あり、静摩擦の存在は必ずしも学術的に立証されていない状態にある。そこで本研究では、「静摩擦とは何か?」という学術的問いのもと、低速クリープをともなう固着現象を合理的に記述する摩擦則の構築を目的として、研究代表者がその重要性を発見した面内ミスアライメントと呼ばれる幾何学的概念を物理モデルに導入し、理論、実験、数値解析により国際共同研究を推進した。低速クリープをともなう固着現象を合理的に記述する摩擦則の構築を目的として、「剛接触系」と「柔軟接触系」の二種類の理想系を検討した。
まず、「剛接触系」については、面内ミスアライメントを有する一自由度すべり摩擦系に速度弱化型の摩擦則を仮定して支配方程式を導出し、時間発展シミュレーションを実行すると、静摩擦を利用することなく、動摩擦ベクトルの回転により、低速クリープをともなう固着現象(=動的固着モード)を再現できることがわかった。また、動摩擦ベクトルの時間発展を計測可能な独自の実験系を構築し、上記の理論の妥当性を立証した。次に、「柔軟接触系」については、剛プローブと粘弾性体のすべり摩擦を表現する粘弾性ファンデーション理論を構築した。固体のレオロジーとしてばねとダンパの二要素モデルと三要素モデルを適用し、一自由度ならびに二自由度すべり摩擦系の定常状態の摩擦係数を支配する無次元数を導出した。更に、三自由度すべり摩擦系の非定常時間発展シミュレーションの中で、面内ミスアライメントを適用することなく、低速クリープをともなう固着現象(=前記とは異なる動的固着モード)が発現することを見出した。
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