研究課題/領域番号 |
21H01255
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
植村 豪 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (70515163)
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研究分担者 |
田部 豊 北海道大学, 工学研究院, 教授 (80374578)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リチウム空気電池 |
研究実績の概要 |
本研究では,リチウム空気電池の多孔質電極内における電解液の濡れ形態を実験的に可視化し,電解液,電極,空気相から成る三相界面近傍の酸素輸送現象を解明して,リチウム空気電池の高出力化を実現できる電極構造を見出すことを目的とする. 初年度は多孔質電極を用いた実験の前段階として,まず観察が容易で表面が平滑なガラス状カーボンの電極棒を用い,電解液が最も単純な濡れを呈する状態での放電試験を行った.電極表面に対する電解液の濡れ方を変化させながら放電試験を行った結果,接触角が小さい条件ほど放電性能が向上することが分かった.接触角が小さいほど電極端面を覆う電解液の厚さが薄い条件となるため,反応面への酸素の輸送抵抗が低減され,高い電流密度での放電ができたと考えられる.特に三相界面近傍では電解液の厚さが顕著に薄くなるため,放電性能の向上に寄与していると考えられる. これらの結果を基に,多孔質構造の電極に対する電解液の濡れ方が放電特性におよぼす影響についても調べた.従来の実験では炭素繊維を積層したカーボンペーパーが用いられているが,これまでの電極配置では炭素繊維の配向が電解液のバルク界面に対して平行となり,酸素輸送には適さない電解液の濡れ方だった可能性がある.そこで炭素繊維が電解液に対して垂直に近い状態で接するようにカーボンペーパーの配置を変更することで,電極反応面上に三相界面や電解液薄膜を効果的に形成し,放電性能の向上を試みた.その結果,多孔質電極を電解液に対して平行配置した場合と比較して,垂直配置させた方が放電性能は向上する結果が得られ,正極電位が同等の条件で比較すると電流密度は2~4倍増加しており,実際に反応に寄与している面積が顕著に増えていることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は実験を実施するにあたってリチウム空気電池の組み立てに必要となる,高純度の不活性ガス(アルゴン)雰囲気中での作業が可能なグローブボックスを導入し,電池製作と実験を円滑に実施できる環境を構築できた.正極の放電特性が電解液の濡れ形態によって変化する結果も得られ,さらに一連の実験結果からリチウム空気電池の正極構造に関する新しい着想も得ており,概ね順調に進行している.
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今後の研究の推進方策 |
実際の放電中の電極を凍結させ,Cryo-SEM観察に至るまでの一連のプロセスを確立する.電極の急速冷却が可能な,専用のリチウム空気電池セルを設計・製作する.Cryo-SEM観察ではサンプルサイズに制約があるため,微小な電極を用い,電池の初期性能のバラツキが生じないように均質化しなければならない.またCryo-SEMで観察するための前処理プロセスの検討も進め,凍結した電極を取り出して任意断面で割断面を形成し,三相界面近傍を観察する方法を確立する.これらの事前検討と準備を踏まえ,実際に放電させているリチウム空気電池の電極を凍結させ,Cryo-SEM観察を行って電解液の濡れ形態を捉える.炭素電極の素材や空隙構造をパラメータとした可視化計測を行うことで,電極表面上の電解液の濡れ現象が電池性能を決定付けるメカニズムを解明する.
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